これは一種の夢なのではないかと目の前で「お願いポーズ」をとる彼女を前に考えていた。
俺は今日いつも通りの時間に起きて、支度をし、俺たちが本拠地を構える場所に出てきたはずだった。
いつもと違うこと。それは、面倒な問題が発生したとかで社長に命令され、相棒がひとり、エッジにいるクラウドを召集という名の拉致をするためヘリを飛ばしたこと。
予想外だったこと。それは…相棒が連れて帰ってきたのが不機嫌の代名詞クラウドではなく…ティ、ティファだったこと。
「お願い、ルード」
「お願いポーズ」の魅力に重なるように追加される言葉。サングラスの位置を調整するふりをしながら動揺している自分をごまかす。
それから、部屋の壁にもたれかかって俺に意地の悪いにたにた顔を向ける相棒に目を配った。…………どういうことだ。
「おひめさまを誘拐してきてやったぞ、と」
相棒が全く答えになっていない答えを返す。
「………俺たちはいつから犯罪集団になった」
「もう、からかわないで。私がお願いしたの」
ティファが相棒にむっとした顔を向ける。相棒が変わらずにやにやしながら目を天井に逸らす。
ヘリから降りてくるなり、驚きすぎて岩のように硬直する俺のもとへ歩いてきたティファは(相棒はその後ろで吹き出していた)ただ一言「鍛錬につきあってほしい」とだけ言った。
た、たんれん……と言葉を覚えたての子どものように復唱すると、ティファは「30分でいい」と言った。………何分とかそういう話ではない。
「ね、ルードにしか頼めなくて」
「お……。………レノ、ティファの番犬はどうした」
「しーらね」
「…俺はまだ死にたくないぞ」
「家にいなかったんだもんな?ティファさんよ」
「………クラウドのことはいい」
「…?」
「大喧嘩だぞ、と」
大喧嘩?ティファは不服そうにまた相棒を睨む。
「……今度は何をやらかしたんだ」
「さあなぁ。おひめさまに聞きな………、おっと…早速か」
けたたましい音(のように聞こえた)を鳴らす相棒の携帯。へらへらしていた相棒が画面を見て、俺たちに目配せをする。それからやけに楽しそうに、電話の音声をこちらにも聞こえるようスピーカーにしてからその呼び出しに応えた。
「…はいはいおれだぞ、と」
『どこだ』
「開口一番挨拶なしかよ」
『ティファはどこだ』
明らかに、明らかに怒っているその声に俺は冷や汗をかく。クラウドと戦闘になったら例え命が助かったとしても1週間は調子が悪くなる。…避けたい。
ティファに目をやると、不機嫌そうに俯いていた。今回の喧嘩はよっぽどのものらしい。鍛錬の依頼もおそらく、ストレスの発散が目的だろう。………嬉しいが避けたい。
「まあまあ落ち着けって」
『早く言え』
「…いつもの場所に招待してるぞ、と」
『…5分で行く。首を洗って待ってろ』
「待て待てま………あーあ、やられるなこりゃ」
ぶつん、と音を立てて切れた電話。
ティファ。30分も鍛錬する時間はなさそうだ。俺は違う死闘の準備をしなくてはいけない。
「もう、クラウド………ちゃんとメモ残したのに」
ティファがどこか、少しだけ嬉しそうに呟く。
(…なんて書いたんだ。それが災いしてるような気がするぞ)
「わりぃ相棒。俺が探すより、ティファを誘拐した方があいつすぐに来ると思ってよ」
「……正しいが、正しくない」
「まあ、頑張っておひめさま守ろうや」
(…むしろ、俺たちが守ってもらわないといけないのでは)
「……ティファ」
「?」
いよいよ面倒なことになってきたと思いながら、目の前でうつむくティファに声をかける。
「………あいつは何をしたんだ」
それによっては、俺も闘う理由が作れる。
そう思いながら、怒っているのか喜んでいるのか複雑そうな顔をする彼女に問う。その、かわいい人はしばらく黙っていたが、口を開いてくれた。
「……1ヶ月前からしてたおでかけの予定、忘れて家に帰ってこなかったの」
(……信じられない)
何がどうなったらティファとのデートを忘れられる。天地がひっくり返っても不可能なはずだ。デートに取り付けるところまでもいけない人間がいるというのに、なんて贅沢な生活をしているんだ、あいつは。
「……それは許せんな」
「…ルード?」
改めてサングラスの位置を調整する。なんとか闘う理由も自分への言い訳もできた。
首を鳴らしながら、同じく戦闘の準備をはじめているレノの隣へ向かう。ティファが後ろで「私と戦ってよ」と呟く。
「……全力で守るぞ、相棒」
「おうよ。強えぞあいつ、いつもより」
「のぞむところだ」
「ヒュー。相棒、格好いいぞ、と」
かなり遠くから、もうすでにクラウドの持つ大きなバイクの音が聞こえてきている。
クラウド、今回の悪者はお前だ。せめてもの罰として、ティファを背中に庇う役目は俺に譲れ。
そしてティファを傷つけたことを三日三晩と言わず、十日十晩後悔すればいい。
部屋の外に出た。空は快晴。
腹立たしいほど、いい天気だ。
檻のそとに、愛しきみ
fin,