頭は痛くないか。喉はましか。眩暈はしないか。寒くはないか。

大人しくベッドに横たわる私に、あたふたと質問攻めするクラウドの姿が、はるか遠い記憶の中のパパと重なる。

 

大丈夫だよ。風邪が移ったら大変だから、ここにいなくてもいいよ。

何度かそう告げたけど、クラウドは聞こえないふりをしているのか、ベッド横に持ってきた椅子に座って立ち上がろうとしない。

 

冷たい掌が、何度も私の額に触れ、熱を測る。まくらとして敷いてある氷よりも、この手の方が心地いい。ごめんね。掠れた声でそう呟いた私に、クラウドは口元を緩ませながら首を横に振った。

 

「いいんだ。嬉しいから」

 

言われるとは思っていなかった言葉に、思わずきょとんとした顔をする。クラウドも自分が漏らした言葉に驚いたらしく、慌てて弁明をした。

 

「あ……ごめん。違うんだ。ティファは苦しいのにな」

「ううん、それはいいの。……いいこと、あった?」

「……いいことというか、何というか」

 

私の熱い熱い手を、大きな掌が包み込む。美しい瞳をきょろきょろと彷徨わせてから、クラウドは私の目を上目に見つめる。

 

「…こういうとき。……そう、肝心なとき」

「……?」

「…肝心なとき、俺はいつもティファのそばにいないから」

「……」

「間に合わないか、遅れるか、どっちかだ。……でも今日は、ずっとそばで守っていられる」

「…クラウド」

「…だから、ごめん。嬉しかったんだ」

 

ああ、そうか。あなたはいつも、間に合っていないって思ってるんだ。

自分に厳しいクラウドらしくて、心の中に愛おしさが湧き出る。そんなこと、気にしなくていいのに。クラウドはいつだって「間に合って」くれるから、私は今こうして生きているのに。

 

「…逆だよ、クラウド」

「……え?」

 

熱のせいでうまく開けられない瞼を精一杯持ち上げて、大好きな人を見つめる。

 

「…クラウドはいつも、肝心なときにここに来てくれる」

「……、」

「約束……ちゃんと、守ってくれるでしょう」

 

だって、私公認のヒーローなんですから。冗談を付け足せるくらいには、どうやら自分にも余裕があるらしい。照れくさくて頬が赤くなってしまう理由は、風邪のせいにしてしまおう。これくらいならきっと、許される。

 

「…ティファ」

 

クラウドの表情がみるみる明るくなる。それから、一瞬何か迷ったあと、身を乗り出して私の額にキスをした。

風邪のせいで触れられていなかったクラウドの温もりに、胸は高鳴る。つい浮かべてしまう、仮病と疑われてもおかしくない笑顔。嬉しい、嬉しいね、クラウド。一緒にいてもいいということは、こんなにも。

 

「ありがとう……ティファ」

「…うん。こちらこそ」

「……なあ、ティファ」

「……?」

「…肝心じゃないときも、そばにいていいか」

「…もちろん。喜んで」

 

クラウドが結局私の唇にキスをして、キスをされた私が「風邪が移る」と怒り、呆れたふりをするのは少しあとの話。汗をいっぱいかいて、決して綺麗ではない私を抱きしめるクラウドに甘えて、私も彼を抱きしめ返す。体の気だるさも、目の前の喜びには、勝てない。

 

目覚めるとき、眠るとき。笑うとき、悲しいとき、何でもないとき。そしていつか……心の臓が止まるとき。

どんなときでも、この人の隣にいたいと思った。それは、私たちが再会したあの日から、一ミリとして揺るがない願いだった。

 

 

 

The ordinary

 

 

 


fin,