起きないのかと、肩を叩かれたような感覚で目が覚める。

 

肩を叩いたのは、ほんの少し開かれた窓から入ってきている、冬へと一歩踏み出した冷たい風。寝ぼけ眼で風の入る方へ目をやると、まだ夕方にもなっていない昼の空が視界に入った。その空をぼうと見つめながら、自分が今、腰のあたりまで気持ち程度にかかっているシーツ以外何もまとっていないことを思い出す。道理で寒さを感じるわけだった。

 

 

 

(……寝てた、)

 

 

 

知らない間に意識を飛ばしていたんだろう。眠ろうと思った記憶がない。でもすぐに……眠る前まで何をしていたのか思い出すのと同時に、しばらく寒さを忘れさせてくれていた人の体温と体重に気づく。その人は……ティファは同じように、何も纏わないまま、俺の体の上に倒れ込むようにして眠っていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

ティファは俺の胸に顔を預けるような形で、すやすやと寝息を立てている。

思わず視界に入った綺麗な人の寝顔を凝視する。それからほとんど無意識に、その大切な人の頭を撫でた。

 

 

 

(……二人で寝落ちたのか)

 

 

 

ティファの心地いい体の重さと、重なり合う生身の肌の何ともいえない感覚を実感しながら、大きく深呼吸をする。どこか嬉しそうにも見える口元の緩んだ寝顔。こんな、柔らかくも何ともない男の体の上でよく気持ちよさそうに眠れるな……と思いながら、自分も似たような顔をした。

 

彼女の頭に口付けを落としながら、どうしてこんな状況になっているのかぼんやり思い出す。

今朝から、俺とティファは二人きりだった。というのも昨晩帰ってきたバレットが、何の気を利かせたのか子ども二人を連れて早朝からどこかに遊びに行ってしまったから。

二人で何する? と嬉しそうに尋ねてくれたティファに、怒られるだろうなと思いながらベッドで過ごすことを提案した。……予想外に、その提案をすんなり許可してもらったあたりから、俺の機嫌はずっといい。機嫌がいいことを自分で自覚してしまうぐらいには、いい。

 

空気の澄んだ朝とも昼とも呼べない時間帯。そこから何時間も二人で、上になったり下になったり重なり合っているうちに、どちらからともなく意識を飛ばしたんだろう。なんとなくは、覚えてる。散々動いたあとに、ティファが「ちょっと休憩」と言って目を閉じたことも……休憩ということは続きがあるのか、なんてことを真剣に考えたことまで。

 

 

 

 

 

(……仕方ないな、俺も)

 

 

 

「……ん…」

「…?」

 

 

 

そうやってティファのことを考えているうちに、彼女が少し体を丸めるように動く。ティファの肩を抱くように触れると、その肩は俺と同じように、風に当たって冷えてしまっていた。

しまったと思いながら、二人の腰あたりで丸まっているシーツを引っ張る。ティファを上から落とさないようにしっかり片手で抱きしめながら。それからもう寒くないように、彼女の肩あたりまでそれを掛ける。少しでもすぐ温まってほしいと、ティファの腰と肩を抱きしめなおす。

 

それで、ようやく安心する。あたたまっていく彼女の体に……ティファの体が温まることに。

 

 

「……ん……?」

「……」

「…あれ……。……寝てた…?」

 

 

少し強く抱きしめすぎたのか、程なくしてティファが俺の腕の中、ふと頭を持ち上げた。少しぼさぼさになっている髪が、ティファがいつもよりずっと無防備であることを教えてくれる。

半分しか開いていない瞳をつい、かわいいと思いながら、ふわりと合ったその目を見つめて頷いて見せる。ティファは俺を認識したあと、すぐに柔らかく微笑んでくれた。

 

 

 

(…ティファ)

 

 

 

「……おはよ…」

「…おはよう」

「……クラウドも寝てた…?」

「うん」

「そっか……お昼寝しちゃったね…気持ち良く……」

「ん……気持ちよかった」

「……」

「……」

「…………あ。…私……クラウドの上に乗ったまま寝ちゃってたね、ごめんね」

「いや、いい。軽い」

「もう…いつもそれなんだから」

 

 

 

気持ちいいという言葉に、別の連想をしてしまったであろうティファが、うっとりとした表情をしたあと急に赤くなりながら早口で話す。そんな様子に見惚れて油断していたら、彼女は俺の体の上から下りようとしていたのか、体をずらした。それを阻止しようと抱きしめる腕に力を込める。せっかくこんなに近くにいるのに、離れるなんて……したくはなかった。

 

 

 

「…? クラウド、重いだろうからおろして」

「…いやだ」

「ええ…?」

「……このままでいい」

「…、疲れない?」

「疲れない。……ティファの体気持ちいいから」

「ば、ばか」

「…嫌か?」

「…クラウドがいいならいいけど」

「よかった」

 

 

 

ティファがもぞもぞと動く。その度に彼女の体や胸の柔らかさや、肌の滑らかさを実感せざるを得ず……こうしていたい気持ちと、いつだって余裕はない本能が争いを始めてしまう。でも、動くなとは口が裂けても言いたくない。

そうやって彼女を見つめて、彼女のことだけを考えていると、ふとまた目が合う。上機嫌のティファは俺の頬に手を添え少し身を乗り出し、触れるだけのキスをくれた。……もうこれ以上良くなることはないと思っていた俺の機嫌が、またひとつ上にいく。

 

 

 

「…ふふ……」

「……、…もう一回」

「……。………」

「……」

「………クラウド」

「…ん?」

「……ううん。…………今何時かな」

「…まだ夕方にもなってない。……バレットたちはいつ戻ってくるって?」

「夜ご飯、食べてくるって…」

「……なら、まだ時間はあるな」

「うん……」

 

 

 

ティファの瞳が、ゆらりと色を変える。この瞬間に立ち会えるのは自分だけなんだと思うと、あまりの贅沢にため息がでる。誰にも見せたくないと、誰にも知られたくないと思ってしまうのはきっと、俺だけのせいではない。

 

 

 

「……クラウド」

「…うん」

「…。……ちょっと、寒いね」

「……窓、閉めなきゃな」

「うん……」

「……」

「……あと、…」

「…?」

「……窓閉めたあと…。……体、あったまること、する?」

 

 

 

目を泳がせ、頭の中で一生懸命言葉を選びながら、今の気持ちを伝えようとしてくれるティファを……愛おしく思い、つい口元を綻ばせる。こうすることを…体を重ねることを、ティファもしたいと思ってくれている今に喜びを隠せないでいる。

 

 

 

(…ティファ)

 

 

 

顔を真っ赤にする彼女を、だらしのない顔で見つめている自覚はあった。でも、こんなにも長い時間繋がっていると、もう見栄を張ったり格好をつけたりする意味もなくなっているから、隠す気も起こらない。

 

 

 

「…っ、わ」

 

 

 

散々今の喜びを実感してから、ティファを抱きしめたまま二人の体をひっくり返す。それから、立場が逆転したティファの上に覆いかぶさる。

 

 

 

「…する」

「……、クラウド……。…あ、待って、窓閉めないと、」

「…終わった後に閉める」

「それじゃ意味ないでしょ…」

「大丈夫。すぐあったまる」

「……風邪ひいても知らないからね、」

「ひかせない」

「何それ…」

 

 

 

笑ってくれるティファの首筋に顔を埋めて、二人の体を出来る限り重ね合わせた。俺が今持っている感覚全てで、ティファの存在を感じて覚えていたかった。

 

たくさん、たくさん抱きしめて、ティファの体をあたためた。

隙間風が当たらないように。入る隙も、ないように。

 

 

 

おおぞらで鍵をなくした

 

 


fin,