同じ「にんげん」なのにどうしてこうも違うんだろう。
湯船に口元まで浸かりぶくぶく泡を出すおれの目の前で、黙って体を洗っているムキムキのクラウド。今日は、マリンがティファと一緒に風呂に入るときだけ許してもらえる、おとこ同士の入浴の日。体をタオルで拭くたびにモリモリ動く腕の筋肉が生きてるみたいで不思議で、おれはこっそり自分の細っこい腕と見比べた。
(……)
「なあクラウド、腕出して」
「?」
まだ、ごしごし体を洗っている最中のクラウドにお願いをする。クラウドは首を傾げながらも、使っていない左腕をおれに見せるように突き出してくれた。湯気で前がよくみえないお風呂の中で、その太い腕に自分の腕を並べる。
「……おれの五倍くらいある」
それだけぼそりと呟くと、ぽかんとしていたクラウドも何のことを言っているのかわかったらしく、ちょっとだけ嬉しそうに口角を上げた。泡だらけでかっこわるいのに、サービスで力こぶを見せてくれる姿は珍しく自信満々に見える。
「すげー、触ってもいい?」
「ああ」
「……おお〜」
「…デンゼルも頑張ればこうなる」
「ほんとに?」
「本当だ」
しっかりしていて、指で突いてもびくともしない筋肉。本当だって真面目に答えられたけど、簡単じゃないことぐらいおれにもわかる。クラウドは一体いつからこんなムキムキだったんだろうか。子どものころから違ったんだろうか。どれくらい頑張ったんだろう。腕立て伏せ何回したんだろう。
「なあなあクラウド」
「ん?」
「ムキムキになるまで何年かかった?」
「五年か六年……?」
「ええー、やだよ長い」
「訓練は続けることが大事だ」
「なんでクラウドは続けられたの? 今も筋トレしてるし」
「…強くなる必要があったから」
「強くなる必要?」
「ああ」
「………ティファ?」
「…うん」
最後の返事は小さな声だった。どうやら今更照れたらしく、クラウドはふいと視線を逸らして体洗いを再開する。
クラウドが何か行動する理由はたいていティファだ。でもまさかムキムキの理由までティファだと思わなくて、思わずため息が出た。ティファがいなかったらクラウドは今ひょろひょろなのかもしれない。そう考えると、今も昔もクラウドのそばにティファがいてよかったと思ってしまう。
(……でも)
かっこいい、なあ。守るべきもののために強くなるって、まるで。
「…なあクラウド」
「?」
「おれも筋トレ、したい。教えて」
「……大事な人でもできたか?」
「違うよ、おれクラウドのアトツギになるんだ」
「後継?」
「うん。クラウドが家にいないとき、おれがヒーローになるんだ」
「……そうか」
それは頼もしいな。そう言うクラウドの微笑みは優しいだけじゃない。からかったりなんかせず、真っ直ぐおれのことを見ていた。
「…言っておくが」
「?」
「俺は厳しいぞ」
「う……ど、どれくらい?」
「…泣くかもな」
「な、泣かないよ!」
「…この家を、マリンとティファを守るんだ。そう簡単なことじゃない」
「う、うん」
「でも……命を懸ける価値のあることだ。……デンゼルを守ることもな」
「……うん」
クラウドの真剣な声に思わず息をのむ。普段口には出さないし力を見せびらかすこともしないけど、クラウドは一生懸命考えて、この家を守ってるんだってことが伝わってくる。その難しさも、大変さも、大切さも全部。
また、口元までお湯に浸けてぶくぶく泡を出す。クラウドはそんなおれの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でる。大きな手のひらが嬉しくて、なんだかくすぐったくって、おれは恥ずかしさから目を逸らす。
(……)
クラウドがムキムキなのは、理由がある。クラウドが、強いのに威張ったりしないことも理由がある。
きっと、ティファが強いことも理由がある。マリンがいつも明るいことも、おれがここにいることも、全部全部理由がある。そういられる……訳がある。
「……おれ」
「…?」
「おれ、がんばるよ」
「…そうか。なら早速今夜からな」
「ええ、明日からにしよう?」
「だめだ。一日でも早くて多いほうがいい」
「うう……わかった」
いつの間にか体を洗い終えていたクラウドが声に出して笑いながら、おれのいる湯船に脚をつっこみ体を沈める。一気に水かさが増したせいで溢れるお湯がおもしろくて、おれも笑い返す。
三角座りをして向き合ったクラウドは、バレットのおじさんほどじゃないけどやっぱり大きかった。目の前にいるクラウドの、でっかい心も体が見せかけじゃないってことくらい、おれにもわかるような気がした。
狼は吠えない
fin,