ばたん、と控えめに閉じられる扉の音で目を覚ます。まだ世界が夜のままであることをわかっているから、瞼は開かない。ベッドの上に横たわったまま、寝ぼけている意識を研ぎ澄ます。ぎ、ぎ、と聞こえるのは重い足音。この歩き方が誰のものかなんて考えなくてもわかるから、私は焦ることなく瞳を閉じたままでいる。

 

「……」

 

その足音はベッドの前で止まる。そして倒れ込むように、身体は私の上に重なる。ずっしりと、急に自分の体に負荷がかかる。大きな掌が、無防備な私の肌をなぞる。香るのはシャンプーの香りではなく、少しの汗と土っぽい匂い。彼が……クラウドがたった今帰宅して、迷わず寝室にやってきたことを、クラウドが纏う外の空気が教えてくれる。

 

「…ティファ……」

 

私に覆いかぶさったあと、こてんと倒れるようにクラウドは隣に横たわった。耳元で呼んでくれた名前は、私を起こすためのものではない。囁くような、つぶやくような、疲れているけれど甘い声。そろそろ目を開けてしまおうかと身震いするほど、心揺れる声。

 

「……」

 

しばらくそのままでいるうちに、すうすうという寝息が始まる。ようやく瞼を開いて、そっと隣に顔を向けても、クラウドはもうこちらを見てはいない。私をしっかり腕に抱いたまま、安心した子どものような表情で、柔らかな寝顔を晒している。

 

腕を持ち上げ、指を伸ばし、乾燥した頬に触れる。おかえり、おつかれさま、ありがとう。ようやく心を落ち着かせたであろうクラウドの邪魔をしないように、心の中で語りかける。シャワーも、着替えも、明日にすればいい。眠るのに邪魔になりそうな装備だけゆっくり外してあげてから、彼の体にシーツをかける。

 

クラウド。

 

もう一度瞼を閉じ直し、クラウドの胸の中に身体を潜り込ませてから、私はそれだけ呟いた。世界は無音になって、ただ静かにこの夜を見守ってくれていた。

 

 

 

無音

 

 

 


fin,