湿気の少ない朝。一人でベッドを抜け出した先、洗面所の鏡に映る自分の裸体を見たとき、これはティファが叫ぶだろうなと思った。俺でも少し驚くくらいの量になっている、首筋を中心に点々とする赤い跡。昨夜触れたり触れられたりをしながら随分酔ってるなと思っていたけれど、それに便乗した俺もティファの温もりにはまっていたからちゃんと気づけなかった。こんなに求めてくれていたことも、理性を飛ばしてくれていたことも。
「な…………!」
俺が先にベッドを出るときいつも、気配を察知するのか寝ていてもすぐに起きてしまうティファ。案の定彼女はベッドのうえ体を起こし、うとうとと俺の洗面所からの帰還を待っていた。部屋の扉を開けるとすぐにその綺麗な瞳と目が合う。おはようとティファが笑う。そして……俺が返事をする前に、口元に手を当てて急速に茹で蛸のように赤くなる。
「な、な、な……」
「…おはよう、ティファ」
「クラウドそれ、ももももしかして」
「…沢山、ありがとう」
いやだ、信じられない、嘘でしょう。色々な言葉を慌てて潜り込んだシーツの中でティファが叫ぶ。その姿がかわいくて、ティファが見ていないのをいいことに遠慮なく破顔する。
全く慌てる必要のない俺は、持ってきたコップから水を飲み、隠れてしまったティファのいるベッドに腰掛ける。早く顔を見せて欲しいと少し強引にシーツを剥ぎ取れば、ティファはまだ真っ赤のまま両手で顔を覆っていた。
「……ティファ」
「うう……」
「…覚えてないのか?」
「……………半分くらい覚えてる」
「じゃあ十分だ」
「……」
「…昨日は楽しかったな」
「お願い……もう何も言わないで……」
髪を撫でる俺の手を痛いぐらいに握りしめながら、ティファが絞り出すように呟く。重なる愛おしさに思わず声に出して笑うと、ティファは顔を真っ赤にしたままじろりとこちらを睨んでみせる。
恥ずかしがることなんてない。求めてもらえて俺は嬉しい。続けて伝えたい言葉は山ほどあるが、今度こそティファの鉄拳が飛んできそうな気がして口をつつしんだ。
「……ティファ」
「…………ごめんね……それじゃ服選ばないと見えちゃうよね……」
「それは別に、どうとでもなるからいい。……それより二日酔いしてないか」
「……。ちょっと頭が痛いです…」
「水は?」
「いる……」
水を飲む、という行為を言い訳にティファを起こす。シーツで胸元を……後でティファが自分の体を見たとき別の叫び声が聞こえてきそうなほど同じ量の赤が並ぶ胸元を隠しながら、ティファがコップを受け取りこくりこくりと水を飲む。
そんな、一向に目を合わせてくれようとしないティファから貰ったコップを適当な場所に置き、できるだけ優しく頭を抱き寄せれば、赤い顔が隠れることで安心したのか力を抜いて寄りかかってくれた。
ふるふると震える長いまつ毛を見下ろす。髪を撫でるたびに俺たちを包む優しいティファの香り。
「…………変じゃなかった?」
「ん?」
「…昨日の私」
「…素直でかわいかった」
「答えになってないよ……」
「…あれくらい、いつも甘えてくれていいのに」
「………それができたら苦労しないの」
「…?」
「…なんでもない」
最後の方はほとんど聞き取れないほどの小さな声。子どもたちの起きてくる声が聞こえるまで、ティファは一言も口を開けてはくれなかった。それでも俺はずっと上機嫌だった。背中にまわるティファの腕の力は、緩むことがなかったから。
背伸びしてみるマーメイド
fin,