お休みの日のお昼間。「空気の読める」電話は、ふたりが衣服を脱がしあった直後に掛かってきた。

 

「……」

「ん…、クラウド」

「……」

「クラウドだめ、電話電話」

「いい……」

「だめ、急用かもしれないよ」

「……」

 

愛撫を中断し、不服そうに目を細め、私を見下ろす電話の持ち主。観念したのか、ごめんという一言とかわいいキスを添えて、クラウドはサイドテーブルに放り投げていた電話を手にとる。

 

「……はい。……ああ、俺だ。急ぎか?」

「……」

「…それは明日の朝の予定じゃなかったのか」

「……」

「………確かに今から動けば間に合うかもしれないな」

「……」

 

(…今から、かあ)

 

一瞬で仕事の顔になったクラウドを見上げながら、何となく胸元をシーツを引っ張り上げて隠す。24時間稼働している「ストライフ・デリバリー・サービス」にとって、休日の突然の呼び出しは「よくある」こと。

 

「……」

「……ああ。……うん」

 

(……あ)

 

様子を伺っていたら、クラウドは電話に耳を傾けながら、私の頬を親指で撫でる。これはおそらく「ごめん」の合図だろう。勝手にそう解釈して、私はクラウドに「大丈夫だよ」という口パクと笑顔を届ける。心のどこかがピリリと痛むのは仕方ない。配達屋さんと一緒に暮らす私の宿命なのだから。

 

だけど、クラウドが電話主にしたお返事は想定外のものだった。

 

「ああ……状況はわかった」

「……」

「だが、応えられない。すまない」

「…え?」

 

思わず声が出る。

クラウドは私を見ないまま電話を続ける。

 

「予定通り明日の朝でいいのなら請け負う。だが今日はだめだ」

「……」

「……別に。配達ができない理由があるだけだ」

「……、」

「必要があればまた連絡してくれ。じゃあな」

 

電話の向こうの誰かがまだ話していたけれど、クラウドは遠慮なく切る。それから再び電話を放り投げ、ぽかんとする私のおでこにキスをした。まるで……何事もなかったかのように。

 

「すまないティファ、待たせた」

「ま、待ってクラウド」

「?」

「いいの? 断っちゃって」

「…どうして?」

「どうしてって、大事なお客さんだったんでしょう」

「……」

 

今度はクラウドがぽかんとする。顔に「何を言ってるんだ」という正直な感想が書いてある。

それは私のセリフだと言いたくなったけど……クラウドは私の頬を両手で包み込んでから、いたって真面目に答えをくれた。

 

「ティファ」

「?」

「今俺は、ティファとの時間を過ごしている」

「…うん」

「これ以上に大事な時間があるか?」

「……、クラウド」

 

(大事な時間……)

 

ぽぽぽと赤くなるのは包まれている私の頬。嬉しいのか、申し訳ないのか、どんな顔をしたらいいのかわからずあたふたしていると、宥めるようなキスが落ちてくる。

 

(……)

 

ああ、ごめん。ごめんなさい、クラウドを必要とする他のどこかの誰かさん。

優先して貰った口づけは……想像以上に、気持ちがいい。

 

「……ふふ」

「…ん?」

「…困ったなあ」

「…仕事をさぼる奴は嫌いか?」

「……。…ううん」

「……」

「…大好き」

 

視線を絡ませつつ、再びお互いを脱がせ合う。お互いしか知らない部分に、たくさん触れてもらうために。

私たちは今大事なことをしているのだと、心の中で噛み締めた。クラウドが大切にしてくれた私を、私は大事にしたいと思った。

 

 

ミー・ファースト

 

 

(小声でささやく)


fin,