真夜中、眠る準備をする間。俺は横になりながら、月の明かりだけを頼りに、ぼうと真っ白なからだを見つめていた。
その人はこちらに背を向けたまま、腕を重そうに持ち上げて、ベッドの上に転がる何かに手を伸ばす。それは十中八九、つい一時間ほど前に俺が剥がした下着。いそいそと恥ずかしそうに身につける姿が愛おしくて、口元はつい緩む。
「……ん?」
思わず声が出たのは、とあることに気づいた……気がしたから。その人は、ティファは不思議そうに顔だけこちらを振り返る。背中に腕をまわし、器用に下着のホックをつけながら。
「……クラウド?」
「…新しいの買ったのか?」
「? ……あ。これ?」
「…うん」
ティファが指差してくれたのは、自分の胸元。頷いて見せると、さっきまでもじもじと隠していたそれを、まるで見せびらかすように俺に見せてくれる。……どうやら、気づいてよかったことらしい。
「へへ、うん。よくわかったね」
「…毎日見てるからな」
「無頓着なのかと思ってた。いつも特に何も言わないでしょう」
「…何を付けていてもティファは綺麗だから」
「もう、調子いいんだから」
わざとらしく頬を膨らませながらも、ティファは横たわる俺のそばに寄り添ってくれる。改めて近くで見る下着姿のティファは言わずもがな魅惑的で、唾を飲んだ音が寝室に響いてしまったような気がした。
「……レースがついてる」
腕を伸ばし、下着に指で触れながら、今更ごまかすように特徴を口にしてみる。
変わらない笑顔をみるところ、間違った選択ではないようだった。
「うん。……やっぱり変かな?」
「どうして? 似合ってる」
「…ちょっと、女の子っぽすぎたかなって思ってたの」
「ティファが、女子っぽいものを選んで何が悪い」
「…何も悪くないね」
「うん。何も悪くない。綺麗だ」
「……」
思ったことを素直に口にしていたら、途中でティファの表情が曇る。何か傷つける言葉を言ったのではないかと、冷静なふりをしながら慌てて脳内で検索するが、すぐには見つからない。
だけど、決して怒っているわけではなさそうなティファは、今更胸元を腕で隠しながらぽつぽつ言葉を紡いでくれた。
「…く、クラウド」
「?」
「こういう下着はその、綺麗というよりも……」
「……というよりも?」
「その……。……何ていうか、そういう系統じゃなくって……」
「……」
「……」
「……」
「……ご、ごめんやっぱり何もな、」
「…かわいい、だったか」
「……」
「……」
正解かどうかは、耳まで真っ赤になるティファがその身を持って教えてくれた。
ティファが慌てて潜り込んだのはシーツの中。その様子がおかしくて一人笑いを堪えながら、一緒にシーツに入り冷えた体を捕まえる。俺に背中を向けるティファを後ろから抱きしめれば、観念したのか大人しくおさまってくれた。
下着ではなくティファを褒めたつもりだったんだが……どうやら言葉を選び間違えていたらしい。
「……恥ずかしい…」
「…ごめん。気付くのが遅かった。かわいいよ」
「! い、いいよ! 無理に言わなくても」
「何で。本当のことだ。……普段使い慣れてないから、すぐ出てこなかった」
「…私、かわいらしさとは程遠いから……」
「ティファはかわいい」
「…お世辞はいいよ」
「いや。いつも思ってる」
「……」
多分、いくら弁明してもティファは納得しないだろうが、すべて偽りない本音だ。
ティファは、かわいい。本人に自覚はないだろうが、ころころと変わっていく表情も、時々子どもっぽくなる拗ねた様子も、ずっと見ていても飽きないほど愛おしい。ティファのかわいいところなら、千夜語り続けられる自信がある。それくらい毎日思っている自信もある。
でもそれ以上に、ティファは綺麗だ。とても綺麗だ。
笑顔も、泣き顔も、怒っている表情も。母親でいてくれるときも、恋人でいてくれるときも、一緒に戦ってくれるときでさえも、ティファはいつだって本当に綺麗だった。幼少期も、旅の途中も、旅を終えた今でさえも、俺は何度もティファに見惚れてきた。何度もティファへの想いを重ねてきた。
だから、ティファに気持ちを伝えようとすると、つい後者が出てきてしまう。女子っぽいとか、大人っぽいとか、そういう部類わけは俺にとってどうでもいい。下着が可愛かろうが、大人びていようが、そんな装飾では変えられないほど、ティファは人として綺麗なのだから。
(……これはこれで、ティファに怒られそうだけど)
「……クラウド」
一人でああだこうだと考えているうちに、ティファが腕の中で体の向きを変え、俺に向き合ってくれた。
今回もうまく伝えられそうにないと半ば諦めその目を見つめる。また、綺麗だと言いたくなるのを堪えて。
「…ん?」
「……変なこと言ってごめんね」
「…大丈夫だ。変なことなんか言ってない」
「ありがとう……。ちょっと欲張っちゃった。本当は何だって嬉しいのにね」
「……俺はもっと、語彙力を鍛えるよ」
「ふふふ」
いつの間にか、機嫌をよくしてくれていたティファの頭を撫でる。シーツに包まれて、直に重なる肌が心地よくて、せっかく着けた下着をまた脱がしてしまいたくなる。……そんなことをしたら一緒に眠ることも許されなくなるだろうから、なんとか踏みとどまるのだが。
「…クラウドは優しいね」
俺の言葉にできない重い感情を、あたたかいものに昇華してしまうティファ。これは優しさとは少し違うと思いながらも、俺もティファの優しさに甘え黙り込む。下着のホックにかけた指は、何もせずそっと離しながら。
ティファの笑顔が見られる方法を、また一つ知れた。そう思いながら、俺はただ美しい人を抱きしめた。そのからだは柔らかく、何もかもを受け入れてくれるような気がした。
少女はマシュマロ
(ぼくを、拒むことを知らない)
fin,