ベッドに寝転がりながら、夜空の向こうを見つめる。

 

小さな窓から見えるのは、珍しくタイミングを合わせて晴れてくれた雲一つない夜空。今夜から未明にかけてがピークだと、ラジオの天気予報は浮足だった声で言っていた。そう。いま夜空を駆け巡っているのは流星群。私の目の前に現れるかどうかは、完全に運次第。

 

こっそり調べた限りでは、流星が通るのはちょうどこの部屋の窓がある方角。だから今、無理やり頭の位置を変えてまで、私はベッド上から星空を見守っている。音のない静かな世界。瞬きをするうちに、一瞬で星が流れてしまうのではないかと、不思議な緊張感が漂う時間。

 

 

 

「ティファ」

 

背中から聞こえてきた声は、流星群にあまり興味を示していない人のもの。私を背後から抱きしめて、甘えるときの猫のような声で名前を呼ぶ。

 

さっきまで散々甘やかしたし、甘やかしてくれたでしょう。

 

終わりのない愛情。そんな言葉は全く意味をなさないことを知っているので、私はそんなクラウドに上の空で「うん」とだけ返事をした。

 

「……。…ティファ」

「…んー」

「……ティファ、こっち向いて」

「うん……後でね」

 

好きな人に求められているのに、後で、なんておこがましいとは思う。だけど今は何としてでも、滅多に見つけられる機会のない流星群に出会いたかった。

 

だってそれは私にとって、私たちにとって大切な意味をもつ光だから。あのときの願いを確かに叶えてくれた、感謝してもしきれない輝き。

 

「……ティファ」

 

どこか拗ねたような声。クラウドは重い身をおこし、自分を見ようとしない私の頬に優しくキスをする。

 

なんとか夜空に集中したいと思っているものの、くれる柔らかさが心地よくてつい頬は緩む。クラウドはそれを決して見逃さないので、いいよの合図が出たとばかりに顔中にキスの雨を降らせてくれる。そんなクラウドにほんの少しだけ顔を向けてしまったのは、牽制の気持ちと……唇にくださいという、本音。

 

「……、…ん」

 

望み通り重ねてもらうキス。クラウドの味は不思議。キャンディの味がするわけでもないのに、甘くて甘くて仕方がない。唇を重ねているだけなのに身体中がぽかぽかと熱くなる。離しちゃいけないと本能が囁く。呼吸が続く限りずっと繋がっていたいと思ってしまう。

 

それほどまでに中毒があることを知っているからこそ、何かに集中したいとき……例えば今、安易にキスをしてはいけないとわかっていたのだけれど。

 

「……」

「……。…もう」

「…やっと目があった」

「うう……せっかく星見てるのに」

 

照れ隠しの私の文句をきっかけに、クラウドは星を見上げる。途端、月明かりに照らされる魔法の色をした瞳。

 

目の前できらきらと輝いてみせるクラウドの目は何とも言い難いくらいに綺麗で、まるで万華鏡の中をこっそり覗かせてもらっているような、特別なものに見えた。

 

(……やっぱり)

 

きらきら、宝物だ。この人の全てが。

 

「……。…流れないな」

「…ふふ、すぐに流れてくれたら苦労しません」

「そんなに流れ星が見たいのか?」

「うん、見たい」

「…願い事があるなら、俺が叶えるからいいだろ」

「……」

「…?」

 

何かおかしなこと言った? 首を傾げるクラウドの顔に書いてある純粋な疑問。

どうしてそんなに自信満々なのかと言い返そうとしたけれど、喜びが勝ってしまって言葉がうまく出てこない。

 

「……そういうことじゃないの」

 

可愛げのないことを呟いてから、もう一度窓の外に目を向ける。頬が緩んで戻らないことにはどうか触れないでいてほしい。

 

(……だけど)

 

クラウドの言ったことは、あながち間違いじゃない。

遠回りしながらでも、望んできた願いの多くはクラウドが叶えてくれた。

 

日々の生活する上での些細な望みから、帰る場所が欲しいという大きな夢まで、クラウドが惜しげもなく現実へと導いてくれた。星空の下、はじめて約束を交わしたあの日から今日に至るまで、ずっと。

 

だから……あの夜の私の願いを叶えてくれたのは、本当は流れ星なんかじゃなくて、きっと。

 

 

 

「……そうだな」

「…?」

 

一人想いを膨らませていたとき、クラウドがぽつりと呟く。思わず星空から目を逸らし彼を見ると、クラウドは穏やかに微笑んでみせた。

 

「願い……ちゃんと全部叶えないとな」

「え?」

「流れ星、見たいんだろ」

「う、うん……っ、わ」

 

首を傾げる間も無く、突然ぐいと引っ張り起こされる体。思わず大きな声が出て、慌てて口を塞ぐ。

一体何が起こるのだろう。状況を把握していない私に、クラウドはどこか嬉しそうに、脱いで床に落ちてしまっていたパジャマを渡す。

 

「へ……」

「…脱がせておいて悪いが、外は寒いからしっかり着てくれ」

「う、うん」

「あと一応、コートも着た方がいいな……」

「…クラウド?」

「…ん?」

「……どこ行くの?」

「……」

 

手際よく私のクローゼットから一番分厚いコートを引っ張り出しながら、クラウドが何気ない顔で天井を指差す。

 

私は彼に誘導されるように、呑気に顔を上に向ける。

間抜けにもそれから気づく。クラウドが指し示しているのはこの部屋の天井なんかではなく、さらにその上のバルコニーだということに。

 

「…あ!」

「…わざわざ狭い窓から、頑張って見なくてもいい」

「もう。ちょっと馬鹿にしてるでしょ」

「してない」

「本当?」

「本当」

 

冗談を言いながら、今度は優しく手を取って、お姫様のように大切に立ち上がらせてくれるクラウド。そんなクラウドから受け取る防寒着を次々と身につけながら、これから幕を開けるロマンチックな夜ふかしのことを思い、口元や頬まで緩ませる。

 

(…こんなお願い、気にしなくていいのに)

 

あなたはなんでも叶えてしまう。ううん、叶えようと頑張ってくれる。私はいつだってその姿だけで……その気持ちだけで幸せになれる。

 

「……。あ、そうだ」

「?」

「私、ホットミルク作ってくるね。……たぶん長丁場になるから、二人で風邪をひかないように」

「…ティファが長丁場だと言うのなら、覚悟しないとな」

「ふふ……お星さまは気まぐれだからね」

「…そうだな」

 

くすくすと、子どもたちの部屋に響いてしまわないよう小さな声で笑い合いながら、二人で再び躍り出る冷えきった廊下。待っていてくれてもいいのに、当たり前みたいにキッチンまでついてきてくれる優しい人の手を握って、私たちは寝不足になる準備を始める。

 

あたたかいホットミルクを片手に、それとは違う温もりを持つクラウドの手をもう片方に。

 

夜空へ続く階段を一緒に登りながら、私はわがままなことを思った。たとえこれから星がひとつも流れ落ちなくたって構わないと。もう、願いは叶ったから。この人のそばにいる限り、叶い続くのだから。

 

 

 

 

蒼い万華鏡

 

 

 

 


fin,