ふと、クラウドの指が私の左耳に伸びてきた。ドレッサーの前に腰かけて、うきうきとした気分で身だしなみを整えていた朝。

どきりとするときまでは一瞬。どきどきする時間はそこから暫く。

反射的に鏡の自分から目を離し、いつの間にかすぐそばにいたクラウドの方に顔を向ける。私の反応は想定内だったようで、クラウドは特に驚くこともなく……ふわふわと、そのまま私の耳たぶに触れた。

 

「……」

「……?」

 

どうしたらいいのかわからずただ目を泳がせる。視界に入るクラウドは半裸。三十分も前に起きた私とは違って、起きてからまだ五分も経っていないから半分寝ぼけているのかもしれない。

クラウドは動揺する私を気にしないまま……ぷちり、と予告なく、私の耳からあるものを摘み取った。

 

「あ、」

 

突然奪われたのは、十秒前に付けたばかりのイヤリング。

返してと、目の前の泥棒さんに腕を伸ばす。そんなクラウドは悪戯めいた表情をしながら、私の腕をあっさり掴んで動きを止めた。ゆらゆらとイヤリングは揺れる。いつも私に優しく触れてくれる、大切な人の指に挟まれて。

 

「もう、クラウド」

「…これ、よくつけてるな」

「え? うん、お気に入りなの…って、そうじゃなくて」

 

返してと、再度のお願い。私が本当に嫌がることを、クラウドはしない。だけどそれは、私が本当はそんなに嫌がってないことを見分けることに長けているという意味でもある。

 

案の定、私が本気で怒っていないことに気づいているクラウドは、目を細めて上機嫌、黙って微笑んだまま。

意地悪したいのか、ちょっかいをかけているだけなのか。何がしたいのかと頬を膨らませれば、クラウドは楽しげに「ごめん」と呟き、あっけなく私にイヤリングを手渡してくれた。

 

「ん。返す」

「あ……ありがとう」

「………」

「……な、なに?」

「…いや。…早くつけて、ティファ」

「……イヤリングを?」

「うん」

「…さっき自分が外したのに」

「……うん」

 

不思議なことばかりするクラウドは、ベッドの端に腰掛け自分の太ももに肘をつく。そのまま私を見て、しっかりニヤニヤする。

一体何にニヤついているのかわからないまま、私は首を傾げる。それから自分の体を見渡す。服はちゃんと着てるし、下も履いてるし、今の今まで鏡を見てたから顔に変なものがついているということもない。

となれば、クラウドの目当てはやっぱり……耳?

 

「………」

 

私を観察するクラウドを観察しながら……受け取ったイヤリングを再度、左耳につける。クラウドはうっとり目を細める。一体何にうっとりされているのかわからないけれど、その表情に私もつられてうっとりする。

わけがわからないまま、揺られっぱなしだ。私も、耳元で揺れるイヤリングも。

 

「……はい」

「…うん」

「…つけたけど、これでいいの?」

「……ああ、よかった」

「…よかった?」

「うん、よかった」

「……何が?」

「………それ、つけるときのティファ」

「……」

「…仕草」

 

ぽつぽつと一言ずつ明かされていく答え。仕草、耳、イヤリング。

何故? という理由はともかく、ようやく判明するクラウドの観察ごと。「そういうこと」と両手を合わせたら、クラウドは嬉しそうに「そういうことだ」と返してくれた。

 

「全然わからなかった」

「…ティファは自覚がないからな」

「そういう問題かなあ」

「そういう問題だ」

 

上機嫌のままクラウドが立ち上がる。そして、無意識に両腕を伸ばしてしまう私を抱きしめ、そのまま例の左耳にキスをする。

 

くすぐったいと笑い声をあげながら、その逞しい首に腕を絡ませ抱き寄せた。

一秒ごとに私を惑わす……自覚がないのはどちらの方だと、左耳にキスを返しながら。

 

 

 

 

レモン・ド・ミルク

 

 


fin,