ティファが手袋を外してくれない。それはそもそも外出するときにつけるものであって、家の中でつけるものではない。一応それとなく伝えてみたけれど、ティファは聞いているのかいないのか、にこにことこちらを見るだけで何も言わなかった。

 

ティファが手袋を外してくれない。さっき……料理をしていたとき、食事をとっていたとき、それと子どもたちがいた前では外しているようだったからようやく満足したのかと思ったが……その夜、部屋を尋ねたら、またはめていた。シャワーを浴びた後につけるものではないことぐらいティファも俺もわかっている。それでもティファは恥ずかしがることもなく、自慢げにそれを俺に見せびらかすだけだった。

 

 

「いいでしょう」

 

 

そうやって笑う嬉しそうな表情と仕草に、俺はただため息で返す。もちろん真剣なため息ではなく、微笑みのようなものが混じったため息。その俺の反応が「正解」だったのか彼女はさらに上機嫌に笑ってくれた。

 

ティファの両手を包む、ティファの手より何倍も大きく見える赤い毛糸で編まれた手袋。指ごとに分かれているタイプではないそれは、何かを掴むことさえ難しそうで、ただティファの手を守るためだけの要素を持って存在している。

 

 

「…またはめてるのか」

 

 

ティファのベッドに腰をおろしながら冗談っぽく呆れてみせる。ティファは、座る俺の目の前に立って少し悪戯な表情をしたまま頷く。

 

 

「うん」

「まだ外ではめるのも暑いだろ」

「そう。だから今はめてるの」

 

 

なるほど。……なるほど、ではないか。ティファがあまりにも当たり前のように言い放つから、一瞬何故か納得しかけてしまった。

 

普段は真面目で冗談さえ言わないティファが、こうしておどけてみせるのがどうしても愛おしくて、笑みを隠せないまま彼女に手を伸ばす。こっちにきて欲しい、という意味だったんだが、ティファは俺の胸に飛び込むことはなく、伸ばした俺の手に自分のもこもこした手を重ねるだけだった。

 

 

「……」

「どう? …あったかいよね」

「…。うん」

「最近…お水冷たいから、料理の後とかもいいかも」

「……料理の後に手袋をはめる人間を見たことがない」

「へへ、私も」

 

 

どうやら、自分が不思議な行動をしている自覚はあるらしい。ティファは引き続き上機嫌だった。

 

やっぱりもっとそばに来て欲しくて、掴みにくくなっているティファの手をなんとか握って引き寄せる。ティファはようやく意図を理解してくれたのか、嬉しそうにはにかんだまま胸の中に飛び込んできてくれた。……想像以上に機嫌がいいらしく飛び込みに勢いがあったから、俺はそのまま背中からベッドに倒れ込む。しっかりティファを抱きしめたまま。

 

 

「…っ、…ふふ…」

 

 

ダイブを楽しんでくれたらしいティファが、手袋をした手を口元に当てて笑う。その手袋の大きさは、ティファの顔を隠してしまうほどだった。……顔まで隠されるとは予想外だ。

それとなくティファの腕をつかんで顔からはがす。すると彼女はおそらく俺の意図を理解しないまま、その毛糸に包まれた両手を俺の両頬に添える。そのまま……口付けでも落としてくれるのなら、俺も手袋問題は諦めるんだが、そういうことをするティファではない。

 

 

「…どう?」

「……。…どうって?」

「きもちいいでしょ? もこもこで」

「……ん」

「中はもっとふわふわしてるの。…あ、クラウドはめてみた?」

「…はめてみたけど、俺には小さかった」

「ふーん……クラウド、手綺麗なのに大きいもんね」

「…なのに、って何だ」

「え? だって……私より綺麗なのに、ちゃんと男の人らしいんだもの」

「……ティファの手の方がずっと綺麗だ」

 

 

だから、はやくそれを外して欲しいんだが。それを言いかけてやめる。目の前で赤くなるティファを見つめることで精一杯だったから。

ティファに触れたくて彼女の頭に手を伸ばし、乾かしたてのその髪を撫でる。こうしたらティファがうっとりした表情をすることがそろそろわかってきた。このまま…その気になってくれたらこちらとしては嬉しいんだが、今晩はそういうわけにはいかなそうだ。

 

 

「…ねえ」

「ん……?」

「……どうして赤色にしてくれたの?」

「…なんとなく」

「何となく?」

「うん……」

「…ふーん」

「……目、かな」

「ん?」

「ティファの目の色」

「…目?」

「…綺麗な赤、思い出したのかもしれない」

「……クラウドに目のこと褒められると、なんだか嬉しい」

「…どうして?」

「だって……クラウドの目の方が綺麗だもの」

「…ティファは俺を綺麗だと思いすぎだ」

「そうかな?」

「うん」

 

 

(…そんな)

 

 

そんな、綺麗なものではない、俺は。綺麗な部分なんてひとつもない。たくさん汚れて、今も汚れて……自分でプレゼントしたはずの手袋さえ邪魔だと思ってしまうぐらいに、ティファに触れたいと思っている。そればかり、ティファのことばかり考えてる。こんな強欲な人間が綺麗であるはずがない。

 

でも……そんなことを言えば同じ文量で言い返してくれるのがティファだから、これ以上を考えるのはやめた。何より、上機嫌なティファにそのまま笑顔でいてほしかった。

 

 

「……ありがとうね。……すごく嬉しい」

「…どういたしまして」

「……。……はやく冬にならないかな」

「寒いの、得意じゃないだろ」

「うん、でも……やっぱり、手袋は外ですべきだよね」

「…やっとわかったか?」

「ふふ……」

 

 

笑顔の彼女が、俺に手を差し出す。ようやく許しが出て、俺はその手袋をその綺麗な……大切な手から抜き取る。抜き取った手袋をその辺に投げてしまおうかとも思ったが、そうすると怒られるのは明白だったから何となく丁寧にベッドの脇に置いた。

 

 

「……」

 

 

差し出してくれた、ティファの手をとって指に口付けを送る。今度こそ触れてもいいか、この手を繋いでもいいか確認を取る。

 

 

 

 

 

本当は、何でもよかった。

 

家の中でも料理の後でも、冷たさや寒さによる痛みからティファを守れるのであれば、どこではめてもらってもよかった。俺が守りきれない分、誰かのためにその手を惜しみなく差し出すティファを……少しでも包んでやれるのであれば、用途なんてどうでもよかった。そのために手袋を買ったから。そのために、手袋を選んだのだから。

 

 

(それなのに……)

 

 

自分でそう思ってティファにあげたものなのに。

この手を守る役割を、この手を包む役割を……手袋にさえ、俺は、快く譲ることができない。

 

 

(……呆れる、自分に)

 

 

「…やっぱり」

「?」

「……ティファの手は、綺麗だ」

 

 

心のうちは置いておいて、まっすぐにティファの目を見て呟く。ティファは照れて困った顔をしつつ、柔らかい微笑みを返してくれる。そして…今度こそその手自身で、俺の頬にそっと包み込むように触れる。

 

 

「…クラウドが守ってくれるからね」

 

 

穏やかに微笑んでみせるティファに包まれたとき、その温もりが触れたとき、俺は受け入れざるをえなかった。

 

この手を離すことができない理由を。ティファへの想いに混ざり込む…まるで母に縋るような、どうしようもない感情を。

 

 

 

こもりうたの騎士になる

 

(守りたいのはどうして?)

(守られたいのはどうして?)

 

 

 

 

 

 


fin,