「あんたら夫婦かい?」
一体何度目になっただろう。この質問を受けるのは。
クラウドと一緒に街を歩いたりお買い物をしたりしているとき、かなりの頻度で街の人たちに尋ねられる。ばったり出会ったお店のお客さん、買い物先の店主さん、クラウドのお客さん、などなど。
彼らが世間話ついでに聞いてくれていることはわかっている。答えがイエスならそのまま話は進む。私かクラウドがノーと言ったり言葉に詰まったりしたら、一体どういう関係なのかという話題に逸れる。真実は後者なのだけど、自分たちですら関係を上手に説明できずにいるものだから、なんとか追求は免れたい。
だから私はいつも、クラウドに任せることにしている。表情に出さないまま、はぐらかすのが上手なクラウドに。
「……まあ、家族だ」
「なら、美人の奥さんのためにサービスしとこうかね!」
「…助かる」
「ありがとうございます! すいません……」
「ははは、なんで謝る」
「い、いえ……」
まさか、クラウドが誤魔化したとは思っていない八百屋のおじさんは、にこにこ笑顔でおまけのトマトを二つ分けてくれる。お礼と、騙してしまっていることへお詫びを兼ねて頭を下げれば、嬉しそうに手を振ってくれた。
そんなおじさんを背にして、うちへ帰るために私たちは歩き出す。
クラウドの左手には重そうな紙袋。右手は……空っぽのまま。
「……、ありがとクラウド」
「ん?」
「ううん。……ずるして、トマト貰っちゃったね」
「…嘘はついてない」
「そうだけど……」
「多分何を答えても、おまけはくれただろう」
「どうしてわかるの?」
「…あっちが探していたのは、ティファを喜ばせる言い訳だ」
「…?」
「ティファを美人だと言いたかっただけだ」
「…もう。からかってる?」
「からかってない」
何だかむすっとしていたクラウドが、ほんの少し笑う。クラウドが本気で言っているのか冗談を言っているのかはわからないけれど、彼の口から美人という言葉を聞けたのは、正直、嬉しい。
照れ隠しに俯いて見る、自分とクラウドの足元。ちょうどいい速度で歩いているつもりの私と、いつもよりゆっくり歩いてくれるクラウド。意識的か無意識か、合わせてくれるのが嬉しくて、私はあえてこのことに触れないでいる。
なんともいえない、私たちの関係。じれったくて、もどかしくて、だけどとても、心地がいい。
「……ねえクラウド」
「…うん?」
「いつも、一人のときも、ああやって答えるの?」
「……。…さっきみたいな質問?」
「そう」
「…大体そうだな。……ティファは?」
「私も最近、クラウドの真似してる」
「…嘘じゃないからな」
「うん、嘘じゃない」
「本当のことだ」
「そう。本当のこと」
リフレインしながら自分に言い聞かせる。私たちは家族。それを証明するものなんて、この世界に何一つないのだけれど、誰が何と言おうと家族。バレットが繋いでくれた。マリンが繋げてくれた。
クラウドが、繋がってくれた。
「……何でもいいんだ、呼び方なんて」
ぽつりと、柔らかい声でクラウドがつぶやく。横顔を見上げると、声の通り優しい表情をしている。
少し小さめの声を聞き逃さないように、私は彼に寄り添う。世界中の音が、クラウドと私だけになる。
「…ティファと家族でいられるなら、形は何だっていい」
「……」
(…クラウド)
クラウドの思い描いている家族は、一体どんなものなんだろう。
マリンに家族の仲間入りをさせてもらったあの日から、クラウドはその言葉をとても大事に扱うようになった。わたしたちの関係は夫婦なのかな、恋人なのかなと恥ずかしくも考えたりすることがある私と違い、クラウドはもっと大きなことを大切にしている気がした。
他人からどう呼称されるかなんて、気にしていないのかもしれない。それは、クラウドにとって重要なことではないのかもしれない。大事なのはきっと、私たちがどう思うか。私たちがお互いを……どう想っているかだけ。
「……」
「……」
さりげなく伸ばした自分の左手。力無く揺れているクラウドの右手に触れたら、何もいわずに優しく包み込んでくれた。
お互い、手にグローブをはめているから肌の感触はわからない。だけど温かいことだけは、ちゃんと伝わる。
「…クラウド」
「……?」
「…家族は家族でも、妹って勘違いされたらどうする?」
「…それは否定する。ティファをそんなふうに思ったことがない」
「ふふ。じゃあ、お姉ちゃん」
「……ティファみたいな姉がいたらいいけど、ティファには姉になってほしくない」
「言ってること、あべこべだよ」
「…許してくれ」
「……お母さん、とかは?」
「ティファ」
「あはは、ごめん」
ごめん。ごめんね、クラウド。揶揄ったりしてごめん。
はっきりさせたいわけじゃない。だけど時々、確かめたくはなるんだよ。私たちが今同じ方向を向いているのか、同じ気持ちでいるのか、時々でいいから知りたくなるの。私にはまだ自信がないから。あなたに手を引いてもらわないと、前を向いて歩くことすら難しいのだから。
隣にいたいの。隣を歩きたいの。一人行きすぎたり、戻りすぎたりしたくないの。
沢山のことにつまづいて、沢山無茶して走ってきた私たちだから、ゆっくり歩くということに、少しずつ一緒に慣れていきたいの。
だから、ごめんね。どうかもう少しだけ、困った子でいさせて。
あなたの手を、私が引くことができるようになるまで。自信満々に、自分の足で歩けるようになるまで。
「…ティファ」
「…ん?」
「……手を離さないでくれ」
「……うん。ちゃんと繋いでる」
クラウドから伝わる、まだあたたかい不安を、私は一緒に抱きしめて、手を握る力にこめる。この人がくれる精一杯の気持ちや勇気を、いつか恩返しの形で渡せるように、今はただ全身全霊で感じる。
私たちがようやく辿り着いた、家族という名の柔らかな器は、私たちがどんな形になっても、壊れることはなかった。
ただ柔軟にあたたかく、その器は存在した。いつか全ての光を見失い途方に暮れたとしても、必ず帰って来られるように。
かたむすび
fin,