「お前24になったんだったか」

 

 

とーちゃんがクラウドに向かってそう言ったのは、久しぶりに家族みんなで揃ってティファの作った夜ご飯を食べていたとき。食べるときはあんまりおしゃべりしないクラウドは、とーちゃんの言葉にただ黙って頷いた。

 

 

「かー! 若ぇなぁ」

「……。…あんたに比べたらな」

 

 

嬉しそうに大きなお口を開けて笑うとーちゃん、小さくため息をつくクラウド。ご飯をもぐもぐ食べながら二人の顔を見比べる。クラウドは24さい。とーちゃんは38さい。私は……。

 

 

「私、7さいになったよ、とーちゃん!」

「おおー! そうかそうか、マリンは7さいか! 大きくなったなぁー…ほんとに……」

「……マリンは大きくなったでいいのか」

「おめーとマリンを一緒にすんじゃねえ!」

 

 

とーちゃんに大きな手で頭を撫でてもらう。うれしくって笑い返せば、とーちゃんは溶けそうなえがおになった。

 

 

「バレットにとっては、24もまだまだ子どもに見える?」

 

 

にこにこしていたら、私の後ろから聞こえてきたティファの声。大好きな優しい声に頭だけ振り返ると、ティファは新しい料理を持っている手と反対の手で、とーちゃんと違ってふんわりと頭を撫でてくれた。

 

 

「そりゃーそうよ。オレが24のときはなあ、まだ……」

「…デンゼル、にんじん食べろ」

「げっ。なんで気づくんだよクラウド」

「こら、話ききやがれ24歳」

「食べやすいように作ってみたんだけど、やっぱりだめだった?」

「……どんな味になっても、にんじんの味残ってるもん」

「デンゼル、わたしにんじん食べられるよ、頑張って!」

「う……マリンはいいよなあー、嫌いなもの、ないんだもんなあ」

「そりゃおめー、マリンはオレの娘だからな」

「ふふ……ねえ、クラウド」

「ん?」

「クラウドがデンゼルぐらいの歳の頃、にんじん食べれた?」

「…ああ」

「……。……じゃあ頑張るよ」

 

 

デンゼルはクラウドがだいすき。いつもクラウドの背中を追いかけてる。だからティファはいつも、デンゼルの背中を押すときクラウドの力を借りている。

 

デンゼルがイヤイヤにんじんを頬張る。思ってたよりもおいしかったのか、ふたくち目からイヤイヤ顔じゃなくなっていくデンゼルの姿を、ティファとクラウドは優しい目で見つめていた。

 

 

(…みんな、おとなだなあ)

 

 

とーちゃんにとっては「ワカい」クラウドだけど、私とデンゼルにとっては立派なおとな。だって、私の3倍以上多く生きているんだもの。私の3倍以上、たくさんのこと知ってるんだもの。

 

 

「ティファはこいつと同い年だったか?」

「ううん、ひとつ下だよ」

「まじか。どう考えても精神年齢的にはティファの方が上だな」

「…余計なお世話だ」

「がはは、デンゼルのぼうずは今いくつだ?」

「9歳になった」

「9つか! マリンのにーちゃんだからな、しっかりやれよ」

「わ、わかってるよ」

「いいか、年齢なんて関係ねえんだ、若かろうが年老いてようが大事なことは一つ! 守るべきもんを守りぬくっつーことよ…!」

「とーちゃんかっこいい!」

「マリン! とーちゃんは今日も明日も……マリン、おまえのために働く……!」

「……バレット口閉じて食べろ、子どもたちが真似するだろ」

「てめ……」

 

 

仲良しのとーちゃんとクラウドが言い争いを始めるのを、ティファがつくってくれた新しい料理を食べながら見つめる。とーちゃんはお仕事頑張ってて、たまにしかこうやって戻ってこない。

 

だけどそれでもとーちゃんが帰ってこなかったことはないから、私は安心してティファたちと一緒に過ごせている。

 

 

(……)

 

 

隣に座ってる、お料理が終わってやっといっしょにご飯を食べ始めたティファを見る。ティファは私の視線に気づいてから、優しく優しく微笑んでくれた。

 

 

「…なあに? マリン。まだお腹空いてる?」

「ううん、へいき! おいしいよ」

「そう、よかった。ありがとう、美味しく食べてくれて」

「…ティファ、にんじん……おいしかったよ」

「ほんとに? 嬉しい。ありがとうデンゼル」

「……ティファ、全部うまかった」

「ふふ、ありがとクラウド」

「おめえはティファに相手して欲しいだけだろ」

「……。あんたもティファに礼でも言ったらどうだ」

「何様だよ! 言っとくけどな、オレはおめえより先にティファの料理も酒もうまいこと知ってたんだからな!」

「食べた数だとそろそろ俺の方が多い」

「んなことねえだろ、僅差でオレの勝ちよ」

「あはは……二人とも仲良くね」

 

 

やっぱり大きな口を開けておしゃべりするとーちゃんと、口の中にものがあるときは黙ってるクラウド。

ティファはそんな二人をよそに、ご飯を食べる私たちをにこにこ見つめていた。

おいしいなあ、うれしいなあ。にこにこ笑顔のティファに、にこにこ笑顔でお返事をしていると。

 

 

「…なあ、クラウド」

 

 

ちょっと黙り込んでいたデンゼルが、まだ言い争いを続けているクラウドに話しかけた。

 

 

「?」

「クラウドがおれぐらいのとき、どんなだった? ……もう強かった?」

 

 

突然真剣な表情で質問をするデンゼルに、クラウドが目をぱちくりさせる。だけどデンゼルが何を聞きたいのかわかったみたいで、とーちゃんを見ていた目とは違う目で見つめ返した。

 

 

「いや……。…デンゼルの方が強い」

「う、うそだ」

「嘘じゃない。ティファに聞いてみろ」

「…ほんと? ティファ」

「…そうだね。デンゼルはもう強いね」

「……んー…ごまかそうとしてない?」

 

 

むっとするデンゼル。でもクラウドはおだやかな表情を変えずにデンゼルを見つめる。

 

 

「…今バレットが言ってたろ。大事なこと」

「……守るべきものを守るってやつ?」

「ああ…。…デンゼルはもう、それが何のことかわかってる」

「……うん」

「俺は、9つのころそんなこと知らなかった。……知ってても、わかっててもできなかった」

 

 

ティファが何かを考えるように目線を下に向ける。だけどこっそり覗き込んだお顔は、悲しいお顔じゃなかった。

とーちゃんを見る。とーちゃんは珍しくクラウドの言うことを黙って聞いていた。そして私と目が合うと、さっきとはちょっと違う優しい笑顔をくれた。

 

 

「…な、マリン」

「え?」

「マリンはもっと知ってるもんな。……バレットが教えてくれたんだろ」

「うん! ……自分一人守れない奴に、家族なんか守れるか!」

「マ、マリン……! とうちゃんは……とうちゃんは……」

「…自分のことも守らないといけないの?」

「そうだよ、デンゼル。まずデンゼルが元気じゃないと」

「…。守らなきゃいけないものって、たくさんあるんだな。……どれから守ればいいのかわかんないよ」

 

 

困ったようにため息をつくデンゼル。そのデンゼルを見て、ティファとクラウドは目を合わせて微笑み合う。

二人は全部わかっているみたいに見えた。私がクラウドにとーちゃんの言葉を教えてあげたあのときとは、二人の表情は違って見えるような気がした。

 

 

「…そうだな。たくさんだな」

「……クラウドは、どうやって全部守ってるの?」

「…一人じゃ守りきれない。だから……デンゼルにもマリンにも、ティファにも手伝ってもらってる。…バレットにも」

「…? おれ、クラウドのこといつ手伝った?」

「……いつもだよ」

「…んん?」

「デンゼルのぼうずにはまだ早いか?」

「あー、結局子ども扱いかよ!」

「がははは、オレはいいんだよ、一番大人だからな」

「ずるいよー…」

 

 

いちばんおとなのとーちゃん。中くらいのおとなの、クラウドとティファ。まだまだ子どものわたしたち。

今こうやって同じご飯を食べているのに、みんなそれぞれ違う。考えてることも感じてることも、知ってることも何もかも。

 

とーちゃんはクラウドのことをワカいと言った。クラウドはデンゼルのことを大人扱いした。しかもクラウドより年下のティファは、クラウドよりセイシンネンレイが上らしい。

3人、何が違うのか私にはまだよくわからない。とーちゃんの言葉、ちゃんと覚えられてもきっと、本当にとーちゃんが言いたいことを私は全部わかってない。

 

 

いつか、わかるかな。あと3倍以上生きて、クラウドと同じぐらいになったらわかるかな。

そしていつか私も「がははは」と笑う日が来るのかな。誰かの中で一番大人になるときが来るのかな。

 

今は何もわからない。わからないけど。

 

 

 

 

 

 

「はやく大人になりたいな」

 

 

デンゼルがため息をつきながら言った。

 

 

「……ゆっくりでいい」

 

 

クラウドは呟いた。

 

大人たちは笑った。

安心して、急がずに、慌てずにおいでと。

あっという間のそのときを、何より大事にしておいでと。

 

 

かさね

 

(生きていればこそ)

 

 

 

 


fin,