昨日の夜。きっと仕事で役に立つからと、ティファは突然袋いっぱいのキャンディを俺に持たせた。

 

正直かさばって仕方ないほどの量だった。でもティファの言うことに間違いはないと、ただそれだけを信じて出かけた仕事。月末だからか発注量も多かったため、俺は不恰好ながら、飴のつまった袋を肩から下げて配達をしていた。これはティファの提案だから恥ずかしがるなと自分に言い聞かせながら。

 

それが間違いではなかったと気付いたのは、届け先、家の奥から出てきた子どもに指をさされたとき。

 

「あ! おにいちゃん、とりっくおあとりーと!!」

 

突然現れたマリンくらいの歳の子に、何を言われたのか最初さっぱりわからずにいた俺に、届け先の親は笑って言葉を続けてくれた。

 

「あら、ごめんなさい配達屋さん。そのお菓子のこと言ってるんだわ」

「菓子? ……ああ、これか」

「おにーちゃん、おかしくれるんでしょ? とりっくおあとりーと!」

「こらこら無理を言わないの」

「……。いや、構わない。そのために持ってきたから」

「え? いいんですか?」

「やったー!」

 

(……こういうことか、ティファ)

 

駄々をこねる子どもの目線に合わせかがみながら、一人遠くにいるティファを思って笑う。幾つあるかも数えないまま、袋の中から鷲掴みでキャンディを取り出し渡せば、子どもは両手いっぱいにそれを抱え、目を輝かせて言った。

 

「ありがとう、おにいちゃん!」

 

その笑顔は、家にいる子どもたちに会いたくなるほど……眩しいものだった。

 

 

 

 

 

「ふふ、やっぱりおねだりされた?」

 

ティファが誇らしげに言ったのは、俺が帰宅してすぐ今日の出来事を報告したあと。

会いたいと思っていた子どもたちはすでに夢の中だったが、誰よりも一番笑顔が見たいと思っていた人には会えた夜。

 

「…驚いた。一軒だけじゃなくて、何軒も続いたから」

 

すっかり空っぽに近い状態になった菓子袋を返し、あったことを伝える。ティファは喜びを隠しきれない様子で、残っていたキャンディを口に含んだ。

俺もそんなティファにつられ遠慮なく頬を緩ませる。今日起こりうることを予測してみせたことに、素直に感動しながら。

 

「…あのね? 今日クラウドがいっぱいお家を尋ねるって言ってたでしょ」

「…ああ」

「だから、もしかして……って思ったんだ。最高の運び屋さんになれるかもって」

「…流石だな」

「そう? だてにお店でイベントもしてませんから」

「…ティファはすごいな」

「ふふ……、ん」

 

勝手な礼もかねて嬉しそうなティファにキスをする。よほど気分がいいのか、ティファも俺の首に腕をまわして応えてくれる。もともと甘いティファの味は、人工的な甘味も加わり余計に色濃く感じた。

 

「……へへ」

 

キスを終えたあとも変わらない笑顔。改めて、ティファには人を喜ばせる方法を思いつく才能があるとつくづく感じる。いや、才能があるというよりもきっと、好きなんだろう。人に笑っていてもらうのが。楽しい気持ちにさせるのが。

 

「……子どもたち、喜んでた?」

「…うん。ティファに見せてやりたかった」

「ありがとう。クラウドから貰えたから、余計嬉しかっただろうね」

「…なんで?」

「だって、お菓子をくれたのがかっこいいヒーローだったら、誰だって嬉しいでしょ?」

「……。そう言ってくれるのはティファだけだ」

「そんなことないよ」

「…いや。ティファに言ってもらえたらいい」

「もう……」

 

9割以上本音でできた気持ち。ティファに冗談だと思われている紛れもない本心。でも今はそんなことどうだってよかった。今夜主役でいるべきなのは、紛れもなくティファなのだから。

 

もう一度、いや今度はしばらく終わらせるつもりのないティファの味見を再開させながら、俺は背後に隠したままの別の荷物のことを考えていた。

 

家族が笑ってくれるかもしれないと用意した、自分のような男には到底似合うことのない……特別な菓子のプレゼントを贈る、明日という未来のことを。

 

 

カボチャの馬車は僕がひく

 

 

 

(どこを通ったって、行き先はきみ)

 


fin,