「これ、なんだろう」
俺の作業部屋のベッドに腰かけるティファが、一枚の写真を手にしてつぶやいた。
ティファがずっと見ているのは、俺が旅先で撮りためていた写真たち。現像するのを忘れ続けかなりの枚数になってしまったそれを、ティファは三十分ほど前から一人楽しそうに物色している。
「?」
どれのことを言っているのかと、机の上で伝票を書いていた手を止めティファに目をやる。俺に気づいたティファはすぐ、その「不思議な一枚」を俺に見せてくれた。
「…ああ」
写っているのは、ただ真っ白な何か。被写体のもつ光の多さにレンズ側が耐えきれず白飛びしてしまっているから、何を撮ろうとしていたのかいまいちわからなくなっている。
だけどそれでも心当たりがあるような素振りを見せた俺に、ティファは首をかしげてみせた。
「わかるの?」
「……夕日だ」
「夕日」
「跡形もないけどな」
「ふふ」
口元に写真を当てて、おかしそうにティファが笑う。今更自分の撮影センスのなさを嘆くこともないから、ただその笑顔に見惚れて微笑み返すと、ティファは機嫌よくもう一度その写真に目を落とした。
「見たかったなあ、夕日」
「…ごめん。でも……写真に収めようと思ったぐらいだから、綺麗だったんだと思う」
「…クラウドもそんな気持ちになるんだね」
「…俺を何だと思ってる?」
「ふふ、ごめんごめん」
楽しそうなティファにわざとらしくため息をついてから、立ち上がる。そのままティファの隣、ベッドの横に腰掛ければ、ティファは自然に寄り添ってくれた。
改めて一緒に写真を覗く。白の中にかすかに混ざるオレンジ。センスのかけらもない写真でも何故か感じる、絵の中の音のない世界。
「……ティファに」
「ん?」
「ティファに見せようと思ったんだ。……というか、写真を撮るときは大体そうだが」
「そうだったんだ。…嬉しい。……ちなみに、場所はどのあたり?」
「……海。コスタの方かな」
「海かあ。たしかに、海と夕日は格別だもんね」
「…今度こそちゃんと写真に収めてくる」
「うん。楽しみにしてる」
今度はここに連れていく。そう言おうと思ってやめた。本当に連れていくことのできる日が来たときに、驚かせたいと思ったから。どうせなら、ティファがとびきりに喜ぶ顔を見たいと。
「…ねえ、クラウド」
ティファが写真を大切に胸元に当てて俺を見る。その写真じゃまだ何の景色も伝えられていないのに、ひどく満足した表情で。
「この写真、貰ってもいい?」
「構わないが……どうするんだ、そんなの」
「お守りにしようと思って」
「お守り? ……それでいいのか」
「うん。これがいいの」
俺が「そんなの」と呼ぶ写真を、大事に大事に見つめるティファを、俺はただ見守ることしかできなかった。代わりとでもいうように、ティファを想う思いだけが、ふつふつと溢れ出た。
写真を撮ったときも、俺はきっと、こんな思いを抱いていた。
ティファのことを想うとき、いつも……心の中はいつも。
ありがとう。ティファは小さな声でそう呟いて、俺に体重を預けたまま目を閉じる。
何も言えないまま、俺はティファの髪を撫でた。想いが伝わるように。笑顔を守れるように。
インビジブル・スターライト
(大切なのは、ここにあること)
fin,