「誕生日教え合いっこしようよ」
エアリスが唐突に提案したのは、次の街に移動する間、敵が弱すぎてあまりに暇だとバレットが文句を言ったからだった。
「誕生日だあ?」
「そ! わたし、覚えるの得意だからみんなの分覚えまーす」
いいね、と穏やかに、隣を歩いているティファが返事をする。なんとなくレッドを見下ろせば、ただ黙って尻尾を降っていた。…俺はといえば。
(……面倒なことになった)
「ね。いいよねリーダー」
「…好きにしろ」
「はーい。じゃあレディーファーストで、ティファ、どうぞ」
「え? 私? なんか恥ずかしいな」
生まれた日を言うだけなのに恥ずかしそうにするティファの誕生日をちゃんと聞きつつ、頭を働かせる。どうやったらこの…今日の俺にとっては面倒な状況を切り抜けられるか考える。
「うん、じゃあクラウドリーダーお願いします」
エアリスが順調に俺に順番を回してきた。聞いてどうすると思いながら、みんなの視線が自分に集中しているのを感じる。
「………企業秘密だ」
「えー? この流れでそれ、言う?」
「そういえば、私も知らない」
「…ティファも知らないのか」
「オレは何歳かは知ってるぞ。な! いっちゃいだもんな!」
「…うるさい」
(…言えるか、明日だなんて)
心の中で呟きながら、みんなの先頭を率先して歩く。さっさとこの話題から逃げ切りたかった。
別に知られるのが嫌だとかそういうわけじゃない。ただ、言った後の展開を何となく予想できたから。みんなが騒ぐであろう展開に、俺は慣れていないし、おそらく不向きだ。
エアリスの文句を背中で聞いていたら、ティファがそっとまた、隣まで駆け寄ってくる。
「…クラウド」
「?」
「気が向いたら、教えてね」
お祝いちゃんとしたいから。ティファはひそひそ話をするように小さくそう呟いて、笑って見せた。
俺はただそれを見つめて…何も言えずただ「気が向いたらな」とだけ返して目を逸らす。それでもティファは嬉しそうにしてくれた。
(……、)
ティファの優しい笑顔に動揺しつつ……俺はどうするのが正解かわからず、ただ黙った。
+・゚
「……」
昼間のことも災いして、その日の夜、俺は一人、焚き火を見つめながら落ち着かず過ごしていた。
こういう日に限ってテントの見張り番に当たる。普段、夜ずっと起きている分には構わないが、今日に限ってはさっさと眠ってしまいたい。
(……)
誕生日、なんて。最後に祝われたのはいつだろう。…俺はいつから一人なんだろう。
昔のことを思い出そうとすると、頭の中にもやがかかったみたいになってはっきり思い出せないが、その日を楽しく過ごした記憶がないことだけは確かだ。
普通は、もっと楽しむものなのだろうか。素直に今日、言っておけばよかったんだろうか。
考えても仕方がないことを考えて、有り余る時間を使っていたとき…背中にあるテントからふと、小さな声が聞こえてきた。
「…クラウド」
「…、」
慌てて反射的に振り返る。そこには、エアリスと入っているテントから顔だけ出すティファがいた。
「…ティファ」
「眠れなくて。…ちょっと隣にいてもいい?」
「ああ……構わないが」
そう答えるとティファはほっとした顔をする。それからいそいそとテントから出てきて、焚き火の前の、俺の隣に座った。…未だティファとふたりきりになることに耐性がなく、俺はつい体を硬らせる。
「……クラウド眠くない?」
「ああ。平気だ」
「そう。…さすが、体力あるね」
「…まあな。だてに訓練してない」
「ふふ。お見それしました」
ティファが笑ったのを見て、俺も頬をゆるませる。特に彼女が笑うとほっとするのは…どうしてだろう。
そうやって何度もティファを横目で見ていたら、目が合った。つい逸らしたくなるのを堪えてそのまま見つめていると…ティファの方が恥ずかしそうに逸らした。
「……。クラウドの目」
「……?」
「…夜でも綺麗だね」
「そうか?」
「うん。…私と見えてる世界違うんじゃないかなって思う」
「ティファの目も……綺麗だ」
「え?あ、ありがと……」
言ってから、自分は何を言ってるんだと我に返る。ティファが照れて俯いてくれたおかげで顔が見られなかったのは、不幸中の幸いだった。
なんとなく目のやり場に困り、星空を見上げる。それから…もうそろそろ日付が変わった頃だと気づく。
そんなときにティファが、思い出したように呟いた。
「…今日、楽しかったね」
「何が?」
「みんなの誕生日いいあいっこ」
「……。ああ」
「なんだか……当たり前だけど、みんなに誕生日があるの嬉しいなって思っちゃった。…レッドはわからないって言ってたけど」
「……」
ティファが言おうとしている意味が、何となくわかる。かなり奇天烈なメンバーである俺たちも、それぞれ普通の人間のように誕生日を持っていることが嬉しいんだろう。こんな旅の途中にも、何も考えずに祝ってもいい日がいくつも存在している、普通の人間にとっては当たり前のことが、ティファには嬉しいことなんだろう。
「………ティファ」
「ん?」
(…何を言おうとしている、俺)
いつも、勢いで物事を口走らないようにしているから、頭の中で自動的に制止する自分の声がする。
だけど何となく、ティファには伝えたくなった。ティファがもし喜んでくれるなら知らせてもいいかもしれないと、思っている自分がいた。
「……誕生日」
「…クラウドの?」
「うん」
「いつかなあ。私は夏と踏んでるんだけど」
「……。…そうだ」
「ほんと? じゃあ……そろそろ?」
「…そろそろ……というより」
「?」
「……今日なんだ」
「え?」
恥ずかしいのか何なのか、ティファの顔を見る余裕はなかったが、隣できょとんとしていることはわかった。
ティファが何かを思いついたように、持っていた時計で変わりたてであろう日付を見る。それからぱあ、と明るい顔で俺の顔を覗き込んだ。
「…今日って……今日?」
「……今日」
「わあ……! おめでとう。…ほんとにおめでとう、クラウド」
「……うん」
「どうして今日……あ、昨日、みんなに言わなかったの?」
「……面倒になると思って」
「もう……」
横目で見たティファはため息をつきながらも、とても嬉しそうに笑っていた。…当事者の俺よりも。
「…じゃあ私、一番乗りだね」
「…そうなるな」
「ふふ……なんか、嬉しいね」
「…」
「……。やっぱり、朝が来たらみんなに教えてもいい? 喜ぶよ」
「……。…好きにしてくれ」
「やった」
さっきまであんなに色々考えていたのに、ティファに言ってしまえばもう何でもよくなってしまった。多分それは…彼女が俺を笑うことなく、そのままを受け入れてくれたから。
「……」
隣で嬉しそうにしてくれる綺麗な人を見つめながら、思った。
もしも誕生日に贈り物があるとするのなら…もう、今年は何もいらないかもしれないと。
光くるとき、朝と名付けた
(太陽に抱かれるために、僕はこの星に生まれた)
fin,