二人で劇でも見に行こうかと、慣れない口説き文句をいただいた。思わず笑っちゃいそうになった自分と、しっかり心をときめかせた自分。圧倒的に後者が強い。私は頬を桃色にし、ただただ無言でその手を取った。

 

着なれない、決して動きやすくはないヒールに、戦うことは難しそうなぴったりとしたワンピース。似合っているかどうか抜群の自信は持たないまま、そのくせ喜んでくれたら嬉しいななんて期待を抱きつつ、同じく着なれないスーツに身を包むクラウドの元へと歩いた。お互いの姿を確認した私たちは、お互いに向かって大きく目を開く。クラウドは微笑む。綺麗だよ。練習でもしたのではないかと思うくらい自然に、私に向かって優しく呟く。剣なんて振りまわしそうにないクラウドの落ち着いた物腰に、私は痛感せざるを得ない。ああ今自分は、恋をしていると。

 

足元からは慣れない音。私のヒールとクラウドの皮の靴。あまりしたことのない組み方で腕を組む。二の腕に触れるスーツの質感は、どうしたって慣れない。

 

すれ違うのは同じ劇場に向かう楽しそうな恋人たち。他の人に見られたって気にしないというように、頬を寄せ、唇を寄せ、自分たちだけの世界に浸るふたり。

 

ねえ、私たちは、どう?

彼らと同じに見えているのかな。彼らと同じようにできるかな。

 

はじめてなの、何もかも。

だから少しだけ怖いの、不安なの。

気にしたって仕方がないのに、周りの目を気にしてしまうの。

 

これって、普通? 一緒に腕を組んでおしゃれをして歩くだけなのに、こんなに緊張するのは、変?

クラウドがいつもより更に格好良く見えることも、自分がどこか子どもじみているように感じることも、落ち着かない気持ちも、大きいままで収まらない心臓の音も何もかも、私には正解がわからないから。

 

 

 

「ティファ」

 

ああ苦しい。胸がいっぱいになって、歩き方さえしどろもどろになり始めた私に、クラウドが声をかける。

救いの手をとるように、私は顔をあげる。目が合うだけで全てのときが止まってしまいそうな、青く美しい瞳を見つめる。

 

「…?」

「…緊張してるか?」

「……してる」

「…俺もだ」

「…見えない」

「隠してる」

「……上手だね」

「ティファに恥はかかせられないからな」

「もう…。…ごめんね、慣れてなくて……こういうの」

「…慣れてなくてよかった」

「…クラウドも」

「…ニブルヘイムじゃ経験できない」

「ふふ……そうだね」

 

かけてくれる言葉ひとつひとつから感じる、素朴でさりげない優しさ。きっと、私よりも私のことを知っている、私のことを見ていてくれる人からの愛情。

だいじょうぶだよ。クラウドがそう言う度に、心の中は嘘みたいに穏やかになっていく。

いっしょにいるよ。ただそれを再確認するだけで、ペースを取り戻すことができる自分がいる。

 

(そうだ)

 

変わらないんだ。変わらなくていいんだ。たとえ人と違っても、怖がったり強がったりしなくていいんだ。

恥ずかしくたっていい。間違ったっていい。笑われたって、躓いたって、きっと。

 

 

 

 

「…クラウド」

「ん?」

「頑張ってみるから……エスコート、よろしくお願いします」

「…喜んで」

 

逞しい腕をぎゅっと抱きしめる。スーツ越しに感じるあたたかさは、いつもと変わらないクラウドのもの。剣を握りすぎたせいで見た目よりごつごつしている指も、歩幅を合わせてくれる優しさも、私の知っているクラウドのもの。

 

だから怖くはない。肩に力を入れる必要もない。どんなときでも、あなたは傍にいてくれる。

 

 

 

人は最期は一人になる。だからそのために、自分の足でしっかり地を踏みしめられる人間にならなくちゃいけない。

そんなことはわかっている。とうの昔から知っている。だけどそれでも今だけは。大切な人を信じて身を預けられる今だけは、どうか。

 

 

 

私たちは手を繋いだ。誰にも見えない場所で、指を絡めて繋いでいた。

 

クライマックスのそのときまで、私たちは一瞬たりとも、離れることを選ばなかった。

 

 

ハッピーエンドを背おう夜

 

 

(幸せになる、覚悟を見つけた)


fin,