クラウドは昔、いわゆる警備兵だったのだと、お客さんの会話を勝手に聞いて悟った。

ニブルヘイムの記憶の中、覚えている彼の姿。あの制服を着た人たちが警備を担当しているだろうことは何となく予想はしていた。いわば、一番よく見た神羅の制服。もしかすると私たちが一番迷惑をかけた人々。一番……倒してきた兵士たち。

 

過去。私たちは積極的に昔の話をしないけれど、全てを思い出してからの戦いで、クラウドには思うところがあっただろう。かつての仲間がいたかもしれない。知った顔があったかもしれない。私がクラウドの知らないところでもがいていた時期があったのと同じで、クラウドは人知れず、兵士として確かな日々を過ごしていたのだから。クラウドにはそこで出会った人々が、必ずいるから。

 

 

 

 

「………」

 

静かになってから暫く経ったベッドの中、厚い胸に頬を押し当てる。熱さを忘れ冷たくなった指で確かめるのは、しっかりと彼のものになっている逞しい筋肉。

 

クラウドの穏やかで綺麗な寝顔をそっと見つめる。相変わらず気を張っているときは怖い顔をしているけれど、それでもずいぶん優しくなった顔つき。寝ているときの彼は正直、美しい以外の言葉ではなかなか表現できない。

 

この美しい人が昔、小さな体だったこと、戦うことに向いているような体型ではなかったことを私は知っている。知っているからこそ、色々考えてしまう。すごくすごく頑張ったんだろうなあとか、何を思いながらここまで鍛え上げたのかなあとか。私や周りがどれだけ気にしていなくても、ソルジャーを目指していたはずの彼がそれになれなかったときの悔しさを思うと、やっぱり辛いものがあるだろうな……とか。一緒に潜ったクラウドの精神世界の中で、彼は落ち着いた様子で悔しかった過去の話をしてくれたけれど……本当は。

 

「………ティファ……そんなに見られると眠りづらい」

「…あ」

 

子どもの嘘がばれたときのような声が漏れたのは、眠り込んでいると思っていたクラウドが突然口を開いたから。

クラウドは片目をそっと開けて、困った顔をする私を見て、少し口角をあげる。それから視界を遮るように、私の頭を自身の胸に抱き寄せた。

勘づかれるくらい見つめてしまっていたかなと、反省しながら自然と腕をその体にまわす。細いのに厚い、バランスが取れているのかいないのかわからない、クラウドの体。

 

「……どうした」

「…ううん」

「……眠れないのか」

「……うん」

「なら……何か話すか?」

 

おしゃべりが得意とは言えない、クラウドの珍しい提案に思わず顔をあげる。それから、何の話をしてくれるんだろうと興味本位で頷く。クラウドは目線を右上にあげて何かを考えたあと、たどたどしく言葉を続けた。

 

「……。…今日な」

「…うん」

「…街走ってたら、歩いているジョニーと遭遇した」

「ジョニー? エッジに来てたの?」

「うん。買い出しだと」

「…何かお話しした?」

「……あいつが一方的にな」

「ふふ……」

「…ティファに会いたがってた。……から、俺がいるときに来いと言った」

「…? クラウドもジョニーとお酒飲みたいの?」

「違う、俺は……別にいい。でも……。……わかってくれ」

 

この話終わり。そう言わんばかりにおでこに落とされる口付け。わかってくれ? 何を? 最初はひとり首をかしげていたけれど、ちょっと考えればわかることだった。……クラウドはやきもちを妬いてくれている。ジョニーにさえも。

 

「……へへ。わかった」

「……わかってくれたならいい」

「…。……表現が合ってるかわからないけど、嬉しい」

「…嬉しい?」

「うん。……心配しなくても、私クラウドしか見てないよ」

「……。…ん」

 

私の体を抱きしめる腕に力がこもる。もう一度覗き見たクラウドは、ちょっと照れくさくなるくらい嬉しそうな顔をしている。

優しい人。ちょっぴりヤキモチ妬きなところがかわいい人。いつだって私を気にかけてくれる人。いつだって……。

 

(……)

 

「…クラウド」

「…うん?」

「……ありがと」

「…何かしたか?」

「うん。たくさんしてくれた」

「……ジョニーのことは、俺のエゴだ」

「ふふ……うん。それでも嬉しい」

 

(本当は、それが嬉しい……なんて)

 

言いたいけど、きっと言わないほうがいい本音。私にも確かに宿るクラウドの言う「エゴ」に、今は静かに蓋をする。

 

「…あのね、クラウド」

「…うん」

「……私が、嬉しいって思うのはね」

 

その代わりに私は彼に想いを伝える。伝われ伝われって。今のクラウドに、今までのクラウドに……ずっと昔のクラウドに。

 

「クラウドがいつも……私の知らないところで、私を守ってくれること」

 

私がこれまで見逃していた過去も含めた、全てのクラウドに。

 

「……それを知ることができて、嬉しいんだよ」

 

 

 

お礼を伝えた私に、クラウドは何も言わないままキスをする。うまく想いを言葉にできなかったのであろうクラウドの気持ちを、重ねてくれた唇から感じ取る。痛いも、苦しいも悔しいも、全部乗り越えたクラウドのキスは、あたたかい。

 

「……」

「………ティファ…」

「…うん」

 

余韻を残したまま終わる口付け。うっとりする私に、クラウドは穏やかに告げる。

 

「…俺は、礼を言われるようなことは何もしてないんだ」

「……」

「ティファのためなら……ティファのおかげで、全部頑張れた。……それだけなんだ」

「……うん」

「…昔も今も……俺はずっとそうやって…」

「…うん。クラウド」

 

知ってるよ。わかってたよ。そんな言葉は必要ない。私がそれを認識しているかどうかは、きっと重要じゃない。

心の中で沸騰するように湧き上がる喜びは、私の中にだけ留めておけばいい。私のためにも……クラウドのためにも。

 

 

 

言葉を続けることをやめたクラウドは、いつもより長い時間をかけて、私の胸にキスマークを残した。

私はそれを受け入れた。肌の上だけなんかじゃなくて、心臓のもっと奥、心に染みつき消えないように。

 

 

エナジー

 

 

(世界で一番かっこいい、きみの)


fin,