「ティファ」
好きな人の声に起こされるなんて、夢みたいだと思った。うつらうつらと、現実と夢の世界を行き来しながら、間抜けにもぼんやりと。
うん……というか細く情けない声が自分の喉から出る。まだ瞼は開けられない。外が眩しいからなのか、まだ眠いからなのか、寝ぼけた頭じゃわからない。ただわかるのは、そんなだらしない私の頭を、大きな手が撫でてくれること。大きくて少しひんやりとした手のひらが、私の頬を包むこと。あまりの心地よさに、寝ぼけながらでも頬は緩む。しっかりしなさいという、いい子の私の声は、遥か彼方に追いやられる。
「……ティファ。起きて」
耳元で、さっきよりも近い距離で届けられる、低く優しい声。乾燥してなかなか開かない瞼を一生懸命持ち上げて、光の中にクラウドを探す。彼はそれを察して、私の力のない手をとり、繋いでくれる。自分はここにいると、肌を通じて教えてくれる。
「……んん…」
本当はもっとしゃきっと起きて、おはようって微笑む余裕があればいいのだけれど、今朝はどうやらだめみたい。せいぜい変な声を出すのが精一杯。クラウドと一緒になった最初の頃は、寝起きの姿を見せることすら恥ずかしくて、絶対彼より早起きして身なりを整えたりしていたのに……慣れは恐ろしいものだ。寝ぼける私は、寝ぼけたふりをしながら確信している。安心している。クラウドはこんな私でも大事にしてくれると。しっかりしていない私でも、いいよって言ってくれると。
「…ティファ」
「ん……あさ…?」
「うん、朝だ。おはよう」
「おはよう……」
「…起きられるか? 子どもたちが朝食を作ってくれるらしい」
「ほんと……? 起きなきゃ……」
「ああ。ゆっくり降りてきたらいい。下で待ってる」
「うん……」
頬にふわりと触れる、柔らかいもの。それがクラウドからのキスだということを、私はもう知っている。そしてそのキスが、私の心を飛び跳ねさせて、目覚めさせるものだということも……わかってる。
「…くらうど……」
ようやく瞼が開いて、その名を呼び返した頃にはもう、時すでに遅し。視界に映るのは、寝室の扉を開けて、部屋を出ようとするクラウドの背中。私の寝起きの小さな声は、階下の楽しそうな子どもたちの声にかき消される。きっと、とても格好良くて、穏やかな笑みを浮かべていてくれたであろうクラウドを見ることは……今朝はもう、叶わない。
「……」
寝相の悪さを思い知らされる、くちゃくちゃのシーツ。鏡を見るまでもない、ぼさぼさの髪。確かめたくないけど、もしかしたらよだれも出ているかもしれない。なんとも情けない格好。油断や隙だらけの、どうしようもない私。
それでも、それでも溢れる幸福感はなんだろう。心を満たす、安心感はなんだろう。
これでいいのだと、ここにいてもいいのだと……春のひだまりの中にいるような、満ち足りた気持ちはなんだろう。
「……ふふふ」
笑顔がこぼれる。私ったら、まだ夢の中にいるんだろうか。ふわふわと優しい気持ちが、すべての格好悪さを受け入れていく。まあいいか、これでいいかと、普段見栄を張ろうとする私が、珍しく私を許す。
目が覚めたら、夢の中にいた。
それは私が知る夢よりも、随分とあたたかいものだった。
Dream
fin,