ベッドに入ってから何時間経ったのかもわからないくらいの真夜中、控えめに音を立てて開かれる部屋の扉。背中を向けて横になっているから目視できないけれど、誰が入ってきたのかは足音でわかる。
どくどくと胸がなるのは喜びから来るものじゃない。どちらかというと不安からくる鼓動。何をされるんだろう、いや、何もされずに終わるんだろうという諦めに似た気持ち。ぎゅっと目を瞑る。ああこんな思いをするくらいなら、帰りなんか待たず眠っておけばよかった。
「……」
ほんの少しめくられる、私が被るシーツ。音を出さないように気を遣ってくれているせいか「誰か」はゆっくりベッドの上にあがってくる。それでもベッドは音を立てる。ぎしりぎしりと音を立てる。
私は、絶対に解くものかと決意を込めてさらにきつく目を閉じる。今ここで起きていることがばれたら、彼が逃げてしまうのではないかと思ったから。……そんなことを思う自分が、とても悲しかったから。
「………」
それでも、暗闇の中でも、自分の顔に影が落とされたのがわかった。クラウドは今私の顔を覗き込んでいる。どんな表情で、どんな気持ちでいるのかなんてわからないから、私はまるで震え怯える小動物のように息を潜める。
クラウドの指が伸びる。私の髪に触れる。残酷なほど柔らかく、その指は髪を耳にかける。
「……おやすみ」
消え入りそうな声が聞こえたのと、私の上にあった影が消えたのと、反射的に強く閉じていた目を開けてしまったのは全て同じタイミングだった。クラウド。その名前を呼ぼうとしたときには既に、彼は少しだけ私から距離をとりベッドの上に横になろうとしていた。
気配を感づかれないようゆっくり頭だけ振り返る。視界に映るのはクラウドの広い背中。すっかり見慣れてしまった触れることさえ躊躇させる背中。
いつからだろう。この後ろ姿を見るたびに感じていた「頼りたい」という気持ちが、「行かないで」という喪失を纏うものに変わってしまったのは。どうしてだろう。クラウドの心が日を追うごとに見えなくなっていってしまうのは。何を間違えたんだろう。どこからしくじったんだろう。
一緒にいるのに、どうして寄り添うことすらできないんだろう。
「…………クラウド」
離れていくこの背中に身を寄せたのはほとんど衝動的なものだった。驚きびくりとする彼を無視し、大袈裟なまでに自分の胸をクラウドの体に押し当てる。気づいて欲しくて意図的に身体をすり寄せる。気づいて欲しくなくて……涙がこぼれるのがいやで、その背中に額を当てて顔を隠す。
「……」
クラウドは何も言わず、何一つ言わず、ベッドに肘をついてゆっくり体を持ち上げた。恐る恐る顔をあげれば、とても苦しそうな表情でこちらを見下ろす彼と目があった。こんなに辛い顔をしているのに何を考えているのかすらわからなくて、それだけで悔しくて悲しい思いが身体と心を支配する。
「……、ごめん…」
ようやく自分の口から出た言葉が謝罪であることに、憤りに近い絶望を感じた。理由はよくわからないにしても、その言葉がクラウドを笑顔にさせるわけがないことくらいはわかっているはずなのに。
案の定、苛立ちに似た表情を浮かべたクラウドは、そのまま無言を貫いて私の首筋に顔を埋める。つめたい空気に似合わない、熱くざらざらとした舌の感覚に、瞳の端からついに涙はこぼれ落ちる。
(さいていだ、)
私も、クラウドも、嬉しいねと敏感になる体も、悲しいよと大泣きする心も、なにもかも。
「…ごめん……」
衣服を脱がされていく最中、クラウドが確かに呟いた悲しい言葉を、私の心は意味を理解しないまま体内へと取り入れた。今の私たちには、この言葉以外の解決策が見えなかった。最後の最後の一本で、つながり続ける方法を、この言葉以外に見つけることができなかった。
Do we love us?
fin,