夜おそく、枕だけを持ってベッドを降りた。
夜中にいちど目が覚めてしまって眠れないまま、たぶん、一時間以上は経っている。
眠れないとき、私が行く場所は決まってる。ティファのお部屋。
ティファはいつも、夜中でもお部屋に行ったら入れてくるから。一緒に寝てくれるから。こんなときティファの隣だったら私はいつもぐっすり、嘘みたいに眠ることができるから。
(……)
デンゼルを起こさないようにそっと部屋を出る。部屋の外が、思っていたよりも眩しくて目をつむる。
(んー……)
おかしいなあ。いつもはこの時間、明かりはティファが消していてついていないはずなのに。
消し忘れちゃったのかな? そんなことをぼんやり思いながら、光にまだ慣れない目を細めて歩く。もちろん目的地は変わらずティファのお部屋。
でも、階段を上がってその部屋に近づいたとき、部屋の中からしないはずの声が聞こえてきた。
「……」
何を話しているのかはわからない。だけど声の主を、私は知ってる。
そう、クラウドだ。今日は帰るのが遅いって言ってたクラウドだ。クラウドが今、ティファの部屋の中にいるんだ。
(…だから廊下の電気がついてたんだ)
階段を上がりながら明かりの理由を思いつく。もしかしたら今さっき帰ってきてたのかもしれない。おかしいなあ、ずっと眠れなくて起きてたはずなのに全然気づかなかった。……クラウドは私たちを起こさないように静かに家の中を移動するのが得意だと思う。
「………、」
「……ー…」
だんだん聞こえてくるクラウドの声。ティファも何かお話ししてるのがわかる。ふたりとも……とても優しい声。
「……」
階段を上り切ってから、ティファの部屋の前で立ち止まる。そして今更思う。私、いまお部屋に入っていいのかな。ふたりで一緒にいたかったりするのかな?
クラウドとティファは、あんまり私たちの前でむやみにくっついたりしない。たまに挨拶のようにちゅーしているところは見るけれど、二人はそれ以上のことをしない。
だけど私は知ってる。私たちがいないところで、二人はいつも以上に仲良しで、ずっとスキンシップしてること。
クラウドもティファも一緒にいるとき、私たちの前では見せないような、とても嬉しそうな顔をしていること。
だから、迷ってた。お部屋をノックするべきか、このまま子ども部屋に戻ってもういちど一人で眠れないか挑戦してみるか。
エンリョしてるわけじゃない。でも忙しい二人にとって、一緒にいられるのはとっても大事な時間だと思うから。ふたりのジャマをしたくないから。
(……うーん)
やっぱり、いまティファと一緒にいていいのはクラウドだ。とりあげちゃダメだ。
きっと私なら眠れる。ティファがいなくたって、頑張ったら眠れる。がんばれ、がんばれ私。寂しいけど、寂しいけど、やっぱり。
(やっぱり)
部屋の前でうつむいたまま、そうやって私自身に言い聞かせ続けていたとき……目の前の扉が、思ってもいなかったタイミングでゆっくり開く。
「……、」
慌てて顔をあげる。
そこには、優しいお顔で私をみている、クラウドがいた。
「…マリン?」
クラウドが、気づいてくれた。
「…クラウド」
「どうした」
「……どうしてわかったの?」
「足音がした。……眠れないのか?」
「……うん」
「そうか」
あったかくて大きな手が、私の頭を撫でる。それがこっそり嬉しくて、私はひとりでにこにこする。
ティファ、と、クラウドが顔だけ振り返って部屋の中のティファを呼んだ。クラウドはやっぱり今帰ってきたところらしい。お外に行く時の服装のままだし、もう片方の手に荷物を持っている。
ティファがお返事の声といっしょに私たちのところに来て、かがみこむ。それから一番安心する笑顔をくれた。
(……)
優しい二人に、結局ジャマしちゃったかもしれないと落ち込む自分と……気づいてもらえて、ほっとしている自分がいる。
「眠れないの? マリン」
「……うん」
「そっか。じゃあ一緒に寝る?」
「…いいの?」
「え? もちろん」
「…でも、クラウドとお話ししてたんでしょ?」
「ああ…俺のことは気にするな」
「いいんだよ。ちょっと雑談してただけだから」
「でも…」
ぎゅうと枕を抱きしめる。どうしたらいいかわからなくて、俯く。
ティファはそんな私に笑いかけてから、クラウドと同じように優しく頭を撫でてくれた。それはクラウドよりも小さな手だったけれど……同じぐらいにあたたかかった。
「…じゃあさマリン」
「?」
「クラウドも一緒に寝てもらおっか」
「え…いいの?」
「ね、クラウド。いいでしょ?」
「ん……別に構わない」
「ほら。これで誰も寂しくないね」
「……うん!」
「…あ、でもデンゼルが明日寂しがるかな?」
「起こすか?」
「あはは、それはそれでかわいそうだなあ……運ぶ?」
「…起きたら驚くだろうな」
「ひっくりかえるかもね」
(……)
二人が楽しそうに話しているのをただ見上げる。当たり前みたいに、一緒に寝ていいよって言ってくれることが嬉しくて、ちょっぴり不安だった心があったかくなっていくのを感じる。
「……」
私は、なんだかどうしようもなくなって、枕を持ったままティファに突撃した。
ぎゅうってしてほしくて、嬉しくて、寂しくて、わからなくて。
ティファはそんな私に驚いたりせずに、何も言わないまま抱きしめてくれた。
いい香り。優しくて、あったかくって、やわらかくて。
「…よしよし、マリン」
「……」
「……クラウド、先に寝てるね」
「うん…シャワー浴びてからいく。……デンゼルもそのとき運ぶ」
「ふふ…それがいいや。……ベッド4人入るかなあ?」
「……詰め込めば入る」
「あはは」
頭の上で、優しい声が交差するのを聞きながら、私はゆっくり目を閉じてティファにもたれかかる。安心して、息をする。
私は、ティファの腕の中でお母さんを思い出していた。
忘れているはずなのに、もしかしたら知らないかもしれないのに……私はそのひとのことをちゃんと、覚えているような気がした。
あたたかかった。ティファは、クラウドは……とてもとても、あたたかかった。
だれかが私に名をつけた
( そばにいるよと、その名は優しく歌い続ける )
fin,