クリスマスなんて嫌いだ。もう会えない母さんと父さんと違って、毎年変わらず訪れるから。

この時期になると、街の中は嫌でも赤や緑に染まる。サンタクロースにクリスマスツリー、ぴかぴか光る飾り付け。街の人たちは頼んでもないのに、世界をお祝いモードにしようとする。何を食べよう、どこに行こう。プレゼントを買わなくちゃ。聞こえてくる声は、そんなものばかりになる。

 

クリスマスなんて嫌いだ。自分がひとりぼっちであることを、無理やり自覚させられるから。

サンタクロースの正体なんて何でもいい。トナカイが空を駆けようが、もじゃもじゃのおじさんが存在しようがしまいが、おれには関係ない。だって、どんなに頑張ったって、どんなに夢を信じたって意味がないのだから。おれのところにサンタクロースが来ることなんて、もう二度と、ありえないのだから。

 

クリスマスなんて、大嫌いだ。そう思っていた。おれはずっと、そう思い続けるんだと思っていた。

 

 

 

 

「…………」

 

12月25日。おれは今、ベッドの上で固まっている。

おれよりも早起きのマリンが、すでにいなくなっている子ども部屋。今日は休日だから、早起きする必要もない朝。一階から聞こえる、マリンのやけに嬉しそうな声で目覚めたおれは、最初、自分の状況を飲み込むことができなかった。

 

「…………こ、これ……」

 

両手で、身に覚えのない袋包をつかむ。

朝目覚めたおれの枕元に置いてあった、小さくも大きくもないプレゼント。それを包むのは、あれほど嫌がっていた赤と緑のラッピング用紙。身に覚えがないけど……これが何を意味するのかわからないほど、おれは子どもじゃない。

 

ごくり、とつばを飲む。慌てて、周りに誰もいないことを確かめる。下から変わらずマリンの声が聞こえてくることを確かめつつ、おれはおそるおそる、そのプレゼントの袋を開けて中身を見る。

 

その中には、ラッピングよりちょっと濃い色の、緑のマフラーが入っていた。

 

(……!!)

 

思わず、マフラーの入っていた袋をぽいっと投げ捨てて、急いでそれを広げる。両腕いっぱいに広げても足りないくらい、それは長くて大きい。顔を埋めてみると、新品どくとくの匂いがする。だけど、すごくあたたかい。ふわふわしていて、握りしめているだけでなぜだか熱くなる、不思議な布。

これって、これって。もしかしなくても。

 

「………っ」

 

起きたとき、寒いなあと思っていたことも忘れて、おれはベッドを飛び出した。上履きを履くのも忘れて、走っちゃダメだと言われている廊下を駆ける。両手でしっかり、マフラーを抱きしめながら。マリンが……クラウドが、ティファがいる、家族のもとに。

 

 

 

 

「あ、デンゼル。おはよう」

 

ものすごい勢いで階段を降りてきたおれに声をかけたのは、ティファだった。

どうやら朝ごはんの支度をしている最中だったらしいティファは、おれのあまりの慌てようにびっくりしていたけど、すぐに何かを察し微笑む。

おはよう。そう言ったティファに返事をする前に、マリンが興奮気味におれに話しかけてきた。

 

「デンゼル! デンゼルは何もらったの?」

「え? あ、ま、マフラー」

「わあ、いいなあ。私、てぶくろ! ほら!」

 

すでにプレゼントをはめた両手をおれに差し出して、マリンは嬉しそうに笑う。マリンのちっちゃな手を包むのは、ピンク色に近い赤のもふもふした手袋。サンタはいつの間にマリンの手のサイズを把握したんだろうと、夢のないことを思うけど、本人はそんなこと全く気にならない様子だった。

 

「…おはよう、デンゼル」

 

ふと、聞き慣れた穏やかな声がする。振り返ると、そこにはキッチンで一人コーヒーを注ぐクラウドが立っていた。昨日の夜、待っても待っても帰ってこなかったから、家に戻ってきたのは深夜だったに違いない。それなのに珍しく、クラウドはもう起きて、ティファの手伝いをしている。

 

「クラウド」

 

胸がいっぱいで、名前を呼ぶのが精一杯だった。クラウドはそんなおれの心の中なんて知るはずもなく、眠そうにのんびりと頷く。今日も仕事なのだろうか。昨日の夜は……寒い中、ずっと「サンタ」をしていたのだろうか。

ぎゅうと、マフラーを抱きしめる。いろんな思いが溢れて、言葉は変わらず出てこない。

 

「デンゼル、サンタさん来てくれたんだね」

 

ティファが身をかがめ、優しい声で話しかけてくれる。こくんと頷くと、もっと笑顔を見せてくれた。

 

「どんなマフラー貰ったの? 私も見たいな」

「こ……こんなの」

「…わぁ! 大人っぽくていいね。デンゼルに似合ってる」

「そうかな? ……変じゃない?」

「変じゃないよ。かっこいい」

 

マフラーを両手で広げたまま、思わずクラウドの方を見る。クラウドはおれと目が合うと、コーヒーをいれるのをやめて、こっちに歩いてきてくれた。

 

「ん。……それなら、長く使えるんじゃないか」

 

わしわし、と乱暴に撫でられる頭。長く、っていうのは、もう少し大人になるまで、っていう意味だろうか。長く使って欲しいって……サンタも思って、くれたんだろうか。

 

クラウド。ティファ。マリン。大嫌いになったはずの、クリスマス。

 

(……)

 

「……? どうした、デンゼル」

「固まっちゃった」

「デンゼル、だいじょうぶ?」

「……やっぱり、おもちゃの方がよかっただろうか」

「しっ! クラウド、中身知ってるのばれちゃうよ」

「す、すまない」

「ふふ……きっとびっくりしたんだよ。クリスマスの話、家で全然してなかったもんね」

 

俯いたまま硬直したおれの頭を、今度はティファが優しく撫でる。その手つきが「誰か」と重なって、おれは目の中がじんわり熱くなるのを感じる。

 

「……っ」

 

ぼろぼろと溢れてしまいそうなものを隠すために、クラウドの足に抱きつく。クラウドは少しだけよろけたけれど、おれを突き放すことなく片手で不器用に抱き寄せてくれた。

 

「……。あ……」

「?」

「ありがと……クラウド、ティファ」

 

抱きついちゃってるから、目の前は真っ暗だ。クラウドたちがどんな顔してるか、おれにはわからない。だけどきっと、家族みんな笑顔でいてくれると信じられた。おれの背中を撫でるクラウドの手は、とても優しい。

 

「……ああ。……サンタとやらに伝えておく」

「クラウド、サンタさんに連絡できるの?」

「…まあな。同業者だ」

「すごーい!!」

「ふふ……」

「マリンも、ありがとうって言ってたって伝えてほしい!」

「…わかった。サンタも喜ぶと思う」

「うん、そうだね。二人が笑顔で、サンタさんも嬉しいよ」

「そうかなあ。えへへ」

「それに……二人とも。満足するのはまだ早い」

「え?」

「……本物のサンタがあと数十分でここに到着する。そいつの持ってるプレゼントはおそらく、規格外のでかさだ」

「………あ! とーちゃんだ!」

 

マリンが目を輝かせ、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。サンタの存在は信じている様子なのに、バレットのおじさんが本当のサンタでも疑問に思わないのか。いろいろ不思議なところはあるけれど、そんなこと誰も気にしていなかった。細かいことはきっと、今どうだってよかった。家族がここにいるのだから。一緒に今日を祝うことができているのだから。

 

油断して顔をあげていたとき、クラウドと目が合う。涙でぐちゃぐちゃになってるのが恥ずかしかったけど、クラウドはおれを笑うことなく、ただ微笑み頷くだけ。ふわりと、父さんの残像が重なる。だけど今は……おれは、クラウドでいい。クラウドが、いい。

 

 

 

 

本当にしっかり三十分後、バレットのおじさんが店の玄関を破壊する勢いでやってくるのは、このあとの話。そのあと、約束もしてないのに、クラウドの仲間たちが続々店にやってくるのも……ずっとあとの話。

 

大嫌いだった、赤や緑、ぴかぴかの飾り付けは、いつの間にかおれの周りにたくさん集まっていた。それはおれに、プレゼントよりも大事なことを、教えてくれているような気がした。

 

 

キャロル

 

 

(わたしを信じて)

 


fin,