「ねえ、ちょっと悪いことする?」

 

ティファはそう言って、いたずらっぽい笑顔のまま、私とデンゼルの子ども部屋の扉をノックした。

 

なんだろう?夜、部屋でおしゃべりして過ごしていた私たちは、ぱっと顔をティファの方に向ける。

ティファが楽しそうな表情をしているから私たちもいっしょに笑顔になる。

 

「なになに?」

 

反射的に訊いてみる。ティファは背中の後ろに両手を回して何かを隠し持っている。それに気付いたデンゼルは首を伸ばす。

 

私たちの反応に満足した様子のティファは、にこにこ笑顔のまま隠していたものをぱっと私たちの前に出した。

 

「…じゃん。夜中のデザートです。…食べる?」

「わーい、やったあ! 食べる!」

「えっいいのティファ、9時以降は甘いもの食べちゃだめって」

「今日だけ秘密ね。………というのも、今度お店に出すプリン、ちょっと二人に味見してもらいたくて」

 

そういうことかと呟きながら、どきどきまじめに焦るデンゼル。両手を伸ばして喜ぶ私。

だってだって嬉しいんだもん。とっても懐かしいんだもん。

 

急いでベッドから降りてティファのもとに駆け寄る。ティファは私に、そしてデンゼルに持っていたプリンを渡してくれた。

 

(久しぶりだなあ)

 

ティファの料理の、夜中の味見大会。「セブンスヘブン」での、私とティファのひみつ。

 

「座って食べてね」

「うん、いただきます!」

「どうぞ」

 

ティファは楽しむ私たちを見て、嬉しそうに笑ってくれる。それから部屋にある椅子に腰掛けて私たちの様子を見ていた。

 

「…おいしい!」

「ほんと?」

「…あんまり甘くない。おれ、これなら何個でも食べる」

「嬉しい。デンゼルも食べれたらいいなって思って作ったんだよ」

「ティファ、このままお店に出すの?」

「迷ってるの。カラメルつけようか、果物のせようか、そのままにしようか」

 

このままでいいよ、って甘いものが苦手なデンゼルが言う。ティファは、それならそうしようかなって笑った。

 

もぐもぐ、スプーンを口に運びながらちらっと時計をみる。

時間を確認して、さっきお店に、ある電話がかかってきてから2時間ぐらい経ったことに気付く。

 

(……) 

 

少し前、1階、お店の中。夜ご飯も食べ終えて、3人でのんびりお喋りしていたときにかかってきた電話。

電話に出たティファの顔で、相手が誰かはすぐにわかった。

 

『仕事早く終わったから、今日、今から帰ってくるんだって』

 

お店にある電話の子機を置いたティファは、「クラウドだろうなあ」と予想していた私たちに、嬉しそうにそう教えてくれた。

 

クラウドが帰ってくるのは明日だってみんなが聞いていたから、まず最初にデンゼルが両手をあげて喜ぶ。私もおんなじように喜ぶ。

ティファは私たちよりずっとずっと、にこにこしていた。

 

(…もうすぐかな?)

 

あっという間に食べ終えちゃったプリンの入れ物を手に持ちながら、私はひとりクラウドの帰りをかんがえる。

 

私たちもクラウドをいっしょにお出迎えしたいって思ってることを知っているティファは、何も言わずに夜更かしを許してくれた。だから、ほんとはちょっと眠いけど、私もデンゼルも「眠い」なんて言わないようにしている。

 

ティファがプリンを持ってきてくれたのも、きっとそう。待ってる私たちに「何かやることがある」時間をくれたんだと思う。だってティファは……とってもとっても優しいから。

 

「ねえ、マリン」

「ん? なあに?」

「もし果物のせるなら、何がいいと思う?」

「いちごがいい!」

「いちご? ちょうど今美味しいもんね、いいね」

「あのね、ホイップクリームものせたい」

「ええ〜? マリンそれ甘すぎるよ、うえーってなる」

「知りません。デンゼルは、何もなしを食べてください」

 

 

小さな言い合いをする私とデンゼルを笑いながら、ティファはポケットからメモ帳を取り出して何かを書く。

それを見ながら私はひとり、嬉しくてにこにこする。

 

 

 

試作品ってティファは言ったけど、寂しかった私にとって、それは完成されたごちそう。

ティファが料理を作ってくれたり、料理のアドバイスを欲しがってくれたり、お話ししてくれたおかげで、私は寂しい気持ちを少なくしてもらえた。

 

だからね、私。今もこうしてティファがいてくれることが、変わらないでいてくれることが、すごくすごく、嬉しい。

 

「ティファはなんでこんなに料理が上手なの?」

 

そうやってずっとにこにこしていたら、同じくプリンを食べ終えたデンゼルがティファに訊く。

 

「ん? んー、食べてくれる人のおかげかなあ」

「おきゃくさん?」

「それもあるけど、デンゼルとマリンと、クラウドと」

「おれも? マリンも?」

「うん。美味しいって言ってくれるでしょ?」

「だって美味しいもん。なあ、マリン」

「うん、ずっとおいしい」

「ありがとう。…せっかくだから料理の参考に、二人の好きなもの改めていろいろ聞いてもいい?」

「いいよ! お肉と……」

「デンゼル料理だよ、材料じゃないよ」

 

ティファがメモをとる素振りを見せる。デンゼルは楽しそうに、自分の好きな料理……というよりも具材をティファに教えていく。デンゼルがあんまりにも色々なことを言うから、ティファはメモが間に合っていない感じだった。

 

 

 

楽しいなあ。嬉しいなあ。

そうやって幸せだなって思いながら、二人をこっそり見守っていた、とき。

 

「…………あ」

 

ほとんど声にならなかったけど、私は小さく驚いた。

 

なぜなら何の前触れもなく、とつぜん、いなかったはずの……ううん、帰ってきてたけど、私たちが盛り上がり過ぎて気づけていなかったクラウドが、ひょこっと部屋の外から顔を覗かせたから。

 

クラウドは小さく顔だけ出して、私たち3人が一緒になっているところを見て安心したような顔をしていた。

それからたった一人、クラウドの存在に気付いた私と目が合うと、さっきティファがやったみたいにいたずらっぽい笑顔のまま、指を口元に当てて「しい」をした。

 

私は満面の笑みで、何度も小さく頷く。

そうしているうちにクラウドはそろりと部屋の中に入る。そうしたら、デンゼルが気づく。デンゼルも面白いぐらいに私と同じような反応をする。クラウドはデンゼルにも「しい」をした。

 

ティファは気づかない。だってティファは、そもそも部屋の入り口に背中を向けて座っているから。それにデンゼルの無理難題を必死にメモしているから、たぶんそれどころじゃない。

 

そうやって、どきどきしながらクラウドを見守る。クラウドはゆっくりティファの後ろに近づく。

それからとってもとっても優しい、嬉しそうな声で、ティファの名前を呼んだ。

 

「……ティファ」

「っ、え! ……クラウド!」

 

ティファは、絵に描いたみたいに驚いて振り返る。

それを楽しくおかしそうに見つめていたクラウドが、そっとティファに顔を近づけて、当たり前みたいにおでこにちゅーした。

とっても嬉しそうな顔しているティファを、私はにやにや見る。…デンゼルは真っ赤になっていた。

 

(クラウド、王子様みたい)

 

「ただいま、ティファ」

「おかえり……! びっくりした、ごめんね。全然気づかなかった……」

「いいよ。…楽しそうだな、みんなで」

「おかえり! みんなでクラウド待ってたんだ」

「そうか、待たせたな」

「見て、ティファの作ったプリン食べてたの」

「プリン?」

「たぶんクラウドも好きだよ、あんまり甘くないから」

「クラウド、ティファが作るものだったら甘くてもなんでも食べるけどね」

「…二人とも、よく知ってる」

「えへへ」

「もう……。…クラウド、お腹減ったでしょ?」

「うん。…でも、無理して準備しなくていい」

「大丈夫、用意してたから。待ってね、下行って準備するね」

 

ティファが上機嫌で立ち上がる。クラウドはずっと嬉しそうにティファを見ている。

 

そしてティファが立ち上がってクラウドに向き直ってから、クラウドは、今度はほんとにちゅーをした。……さすがの私も、ちょっと顔が赤くなった気がした。

 

ぺしん、と。ティファは照れ隠しにクラウドの胸をはたいて、慌てて部屋を出て階段を駆け下りて行く。

わざとらしく痛そうな素振りを見せていたクラウドは、ふと私たちを見て、またいたずらに微笑んでくれた。

 

「…二人はどうする?」

  

まるで「夜更かしを続ける?」と聞かれたような気がして、私はデンゼルと顔を見合わせる。

それから二人、わくわくしながら同じタイミングでクラウドのところに駆け出す。嬉しくて嬉しくて、クラウドの隣を歩きながら、私たちは笑顔になる。

 

 

 

 

眠る時間がもったいなかった。話したいことは沢山あった。過ごしたい時間がまだまだあった。

 

私たちは、二人がつくってくれる世界の中にいた。

そこが何色でも、私はここにいたいと思った。

 

 

 

アラモードはいらない

 

 

 


fin,